05.でたらめな強さ
混迷する戦地にさっそうと飛び降りたのは、冠位半月級の第五階梯魔術師ブロード・レッドマイア。マジックアイテムの火鼠のマントをひるがえし、彼は単独敵地に降り立った。
「行こう!」
バーリントンとアルマはかろうじてひとつだけ残っていた見張り台へと向かい、はしごを駆けのぼった。
高台からは、ブロードの姿がよく見えた。その瞬間にも彼が横切っていく。ブロードを乗せたファイアバードが、敵の待つ荒地へと向かった。
ファイアバードが、高度を下げ、地面に近づくと、ブロードは敵陣地に向けて降下した。
「飛び降りたぞ!」
誰かが叫んだ。
落下するブロードの周りを赤いオーラが包んでいる。火の精霊の加護だ。そうして自由落下による重力のくびきに抗っているのだ。
ブロードを下ろした後、ファイアバードはそのまま前進して、投石機へと近づいた。
蛮族の矢が放たれるが、体を左右に回転させ、すべての攻撃をかわした。
くちばしを上下に開いたファイアバードの喉奥から放たれたのは、大量の熱線だった。オレンジ色の火炎が投石機を直撃し、周囲にいた蛮族もろとも焼きつくした。ぎゃああ! ひいい! やつらの悲鳴があがった。
「なんてことだ、燃やしてしまいやがった。学院にはこんな化け物操るやつがいるのかよ」
いつのまにかアンディゴがはしごを登ってきていた。
「彼は例外的なの」アルマは声を張り上げた。「冠位半月級の第五階梯魔術師ブロード・レッドマイア!」
ブロードは野原に降り立った。悠然とした足取りは、まるで果樹園を観覧しているかのようだ。凶悪な武具を構えた蛮族の勇壮な姿を目の当たりにしたところで、その目の涼しさに一点のかげりが差すこともなかった。
「ああ、いい男」
アルマは吐息まじりに、顔を赤らめ言った。たしかにブロードは美形だった。端正な顔立ちは少女を思わせる。風にそよぐその長髪は、金糸のように細かった。
蛮族の弓が一斉にブロードへと向けられる。やつらは砦のあった場所を取り囲むような陣形をとっていた。その数、二百程度。その武器のすべてがブロードひとりへと向けられている。
「おい、いくらあのあんちゃんでも死ぬぞ。あんな数防ぎきれるわけがねえ。あの火の鳥に乗ったままの方がよかったんじゃねえか」
アンディゴは眉間にしわをよせた。
「まあ、見てなって、兵士長」
アルマはにんまり笑った。
矢が放たれた。無数に弾かれた弦の響きが、荒野の空気を震わせる。強い力で打ち放たれた矢のすべてがブロードへと向かう。その光景は、さながら弓矢の豪雨のようだった。
「何だと!」
しかし、それらはすべてブロードに当たる寸前に焼失した。
驚愕の光景だった。
ブロードの頭上に不可視の炎の壁があるかのようだった。鉄の鏃が空中で粉々に消えていくのだ。それは敵から見れば驚異そのものであったことだろう。あたりには焼け焦げた臭いと灰が散らばっていた。
「!!!!」
蛮族どもは混乱するあまり、矢を次々と放ち、そのすべてを無駄にした。
ブロードはマントを翻した。
(あれがレッドマイア家に古くから伝わるという火鼠の毛皮のマントか)
バーリントンは息を飲んだ。
そのマントにマナの力を通わせることで、この結界を形作るのだ。これには並の武器では太刀打ちができない。魔力を通わせた武器や魔術そのものではないとあの結界を抜けることは不可能だろう。
「どうにもこうにも出鱈目な話だ」
もう降参といった風に、アンディゴは両手をあげた。
次の瞬間、ブロードはマントの中から手を突き出した。
弓矢の豪雨をすべて防いだ彼は、いよいよ蛮族どもに対峙する……。




