74.対決
ブロードは、鷲胴と総司に決闘の場を設けるのだが、武器頼みの鷲胴にはもう何も残っていなかった。
「鷲胴! 騎士なら戦え。今度は総司が相手だ」
ブロードは総司に視線を合わせた。
総司はミリアを見て、重吾を見て、鷲胴を見た。
「据え膳ってやつか? 分かった。やってやる。おい、ブロード」
総司は鷲胴に近づくと背中越しに魔術師に話しかけた。
「あんがとよ」
ブロードはそのうなずきをひとつ返すだけだった。
「近づくんじゃねえ!」
鷲胴は叫んだ。両眼は充血し、口の端からはよだれが垂れていた。カチカチ。彼がすがるものは拳銃だけだった。弾切れを起こし、気の抜けた音色を奏でるだけの楽器と化した拳銃しか、彼にはなかったのだ。
「んなもん置いとけ。殴り合いでカタをつけるぞ」
両手を構えた総司を迎えたのは、引き金を引くカチカチという音だけだった。
「しっかりしろよ! お前、連合のカシラなんだろうが!」
カチカチ。
総司が片足を上げ、その太ももが鷲胴の首筋にめり込んだ時に勝負はついた。音のなるおもちゃは床を転がり、じゅうたんの毛足の長い中に沈み込んで二度と浮き上がってこられないように見えた。
「なあブロード、こんなんで勝ちって言えんのかな。俺のしたことといえばアホみたいに弱った相手を蹴り飛ばしただけだぜ」
「治癒した立場として、君がどれだけ強く痛めつけられたか、僕は知ってる」ブロードは言った。「もし同じ痛みを味合わせられたなら、鷲胴はとっくに死んでいただろう。君は精神の強さで鷲胴に勝ってたんだよ」
「なんかピンとこねえ」
総司はツンツン頭をぽりぽりかいた。
「まあいいじゃねえか。拳銃頼みのクソ野郎が勝手にイカれてお前が勝った。それだけのことだよ――」
ほかにも何か言いかけた重吾だが、ヒロシがぺろぺろ舐めるのでさえぎられてしまった。
「――姉ちゃん」
総司はミリアに駆けよった。疲れ切ったミリアへ。弟の無事に涙を流すミリアへ。総司の人間関係のせいで、ここまで連れてきてしまった姉へ。
総司の両がとまった。
ブロードに足枷の鍵を外してもらった直後、ブロードの肩に、髪に、その顔を沈めるミリア。その安心しきった顔。ブロードを見つめる輝き放つまなざし。それを受け止めるブロードの横顔。ふたつの視線が生む重力の強さに、総司は近寄れない気がした。
――まいったな。つけいる隙がねえや。
「無事でよかったわ、総司」
ブロードの肩越しにミリアが声をかけてきたので、総司は顔を上げた。
「この期に及んで俺のこと心配してくれるのかよ。激怒されて当然なのに」
「何言ってんのよ。私だって、あなたのことが心配で仕方なかったんだから」
総司の両目に厚いものが込み上げた。
「俺、なんて謝っていいかわからない」総司は震えた声で言った。「すんげえ迷惑をかけてしまった」
「いいのよ。一緒に帰りましょう」
ミリアは、ブロードから身を離すと、総司へと手を伸ばした。そして、総司の手を取って両手で握り込み、涙に潤んだまなざしを向けた。二人は言葉少なく、だが、静かに結ばれたその手の中に和解の光を宿したのだった。
和解する姉と弟。災難は終わった。家に帰るのだ――。




