73.魔術師その3
銃弾を打ち込まれたブロード。だが、彼は立ち上がる。その声は明瞭にして、気品が漂っている。魔術師の目が鷲胴を見据えた。
「確かにその銃、見覚えがある。なんかの映画で見たのだったかな?」
ブロードの声がした。
鷲胴もミリアも目を見開いた。
ブロードの声はとても明瞭で、落ち着きがあった。優雅さと気品とをたたえていた。銃弾で体を傷つけられた人間が出すような声ではなかった。
ブロードは立ち上がった。マントに寄ったしわを、ズボンのしわを指先で払った。それから、繊細な長い髪をかきあげた。
「ビックリだ。驚かされた。まさかそんなものが飛び出してくるとはね。確か日本では銃の所持は違法なんだろう?」
「何で……てめえ……」
鷲胴の顔には恐怖が張り付いていた。銃に撃たれて傷一つ負わず立ち上がってきた男。冷静に語り出す男。恐怖が、鷲胴の両手に銃を構えさせ、再度引き金を引かせた。
今度は、鷲胴も目にしたはずだ。銃弾がブロードに到達する前に空中で炎上霧散する様を。何百キロの速度で放たれた鉛の玉が消えてなくなる様を。
「僕にも自慢したいものがある。このマントだ。火鼠のマントといい、代々わがレッドマイア家の魔術師が使ってきたものだ。マナを通すことで火炎の防御を得ることができる。弓矢ごときならガードする分に造作もないが、銃弾まで防ぎきれるとは僕にも想像が及ばなかったよ」
「あああああっ!」
鷲胴は撃った。何度も撃った。弾が尽きるまで撃った。そのたびに、ブロードの目の前で極小の花火が咲いた。そのすべてが無駄弾に終わったのだ。
「なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ!」鷲胴は、もはや驚愕の表情しか作れなくなったのではと思わせるぐらいに驚愕していた。「何者なんだよぉ、オメー!」
「――魔術師だ」
そう言ってブロードは鷲胴を見すえた。
その直後、廊下側の壁を突き破って巨大で白いものが突進してきた。
それは重吾にヒロシと名付けられた巨狼なのだが、鷲胴の目にはこの世ならざる妖怪変化に映ったことだろう――ブロードが制していなければ、ヒロシは鷲胴の首を口の中に収めているところだった。
「鷲胴の身柄は、総司のために取っておく」
時間をおかずに総司と重吾が、部屋の中に飛び込んできた。
「ワケが分からねえ」
今度は鷲胴がくずおれる番だった。もう立ち上がれないくらいにぶちのめした相手が、顔面を切り刻んでやった相手が、まったくの無傷な様子で再び目の前に姿を現したのだから。
鷲胴を追い詰めたブロード。総司と重吾も駆けつけ、いよいよ反撃がはじまる。




