69.札幌の爆弾魔
桜野ミリアの変な外人が、総司を助け出したという報告を受けた暴走族のヘッド・鷲胴。彼のもとに赤色の魔術師が向かっていることを彼はまだ知らない。
ピピピ。信号みたいな味気のない着信音が、ミリアへと伸ばされた鷲胴の手の身動きを止めた。
「なんだ」
パンツの後ろポケットからスマートフォンを取り出し鷲胴は応答した。
距離が近いため、話し声が聞こえてくる。
『鷲胴さん、総司が姿を消しました』
緊張し切った声が言った。
「現場は池沢に任せたはずだ。池沢はどうした」
『重吾にやられました。重吾が変な外人を連れて戻ってきたんですが、そいつはかなり腕が立つみたいです。総司も奪われました』
――外人!?
もしかして、ブロード⁉︎
もれ聞こえてきた会話に、ミリアは叫び出しそうになった。彼が総司を助けたのだ。
「嘘ついてんじゃねえよな。重吾は、病院送りになってもおかしくないぐらい痛めつけたんだぞ」
『ピンピンしてました』
鷲胴は納得がいっていないのか、眉間によったしわは揺らぐことがなかった。
「その外人ってのは何者だ」
『総司の家の居候で、桜野ミリアの彼氏みたいです』
「強いのか」
『腕っぷしも強い上に、爆弾持ってるみたいです。倉庫事務棟の壁も穴だらけにされてました』
「爆弾か。怖えやつもいたもんだ。きっと連中、こっちに向かってんだろうな」
『池沢は、別の場所を教えたみたいですが、信じていないみたいでした』
「連合の連中にすすきの一帯をパトロールさせておけ。見つけ次第こっちに連れてこさせろ。もちろん生きたままでだ」
『了解しました』
通話が途切れると、鷲胴はミリアに顔を向けた。
「ミリアちゃんはとんでもない野郎と付き合ってるんだな。完全にノーマークだった。悪いけど、そいつは全力で殺させてもらうぜ」
鷲胴は笑顔を向けた。
不良どもの口から語られるブロードの姿と、ミリアの知っているブロードの姿が、うまくかみ合わない。彼は、お坊ちゃんなところはあるけれど、家事を負担してくれる家庭的な人で、猫を愛でる優しい人だ。勉強熱心で恐ろしいほどの学習速度の持ち主でもある。
『僕は魔術師なんだよ』
いつかのブロードの言葉が脳裏によみがえった。
魔術師なら、奇跡を起こすことも不可能ではない。
「いい女はすげえ男を引き寄せるもんだ。ミリアちゃん、さらにアンタのことが気に入ったぜ。目の前でその外人を殺してやるから、そうしたら、骨の髄まで俺のものにしてやるからな?」
「あんたなんかにはブロードは負けない」
ミリアは声を張り上げた。
「たまんねえな。その気丈な目つき。めちゃくちゃにしたいぜ。そうかい。そうかい。期待が裏切られなきゃいいけどな」
その時だった。不意に、部屋のガラス壁が割れた。ベランダに面した窓が、無数の破片となって鷲胴の部屋のじゅうたんの上に散らばった。ガラス壁に開いた大穴から、突風が中へと吹き込んできた。
「何だ⁉︎」
鷲胴が驚愕の声を上げた。
「ミリア、迎えに来たぞ!」
部屋の中に一人の男が現れた。赤色の魔術師、ブロード・レッドマイアが部屋に飛び込んできた。
ガラス壁を突き破って、ブロードはミリアの目の前に姿を現した! 反撃がはじまる。




