61.侵入者
桜野ミリアが一人っきりでいたとき、不審な足音が聞こえてきた。アコーディオンドアの奥に隠れ、見ていると、見知らぬ男たちが部屋に入ってきた。
うっかり肘で机の上から消しゴムを落としてしまった。じゅうたんの上を転がる消しゴムを探してベッドの下をのぞいた瞬間、階下で玄関のドアが開く音をミリアは聞いた。
ブロード、もう帰ってきたの?
いや、それにしてはあまりにも早すぎる。
とすれば総司か?
あいつなら考えられる。いつも好きな時間に来ては好きな時間にどこかに行く。
階下からは二人分の足音が聞こえてきた。多分総司だ。一緒にいるのは友達の重吾だろうか。
ミリアは勉強机の椅子を引いて腰を下ろした。机からひまわり色の髪留めを取り出し、後ろ髪を結んだ。それから、テキストブックを開いて確率の勉強に戻ろうとした。
――何かがおかしい。
直感が言っている――足音はブロードでも総司でも重吾でもないと。
――じゃあ誰なの?
見当もつかない。
足音が階段を登ってきた。近づくにつれ、それが総司たちじゃないという確信が強まってくる。ブロードはもっとおしとやかに歩く。総司や重吾はもっと荒々しく歩く。
ミリアは物音を立てないようにそっと椅子から立ち上がると、クローゼットのアコーディオンドアを開いて、中に収まった。
スマートフォンを手に持っていなかったことを悔やんだ。居間の充電ケーブルに突き刺さったままだ。スマートフォンさえあればブロードやサフィーに助けを発信することができるのに。
足音は不意にミリアの部屋の前で止まった。
不意にドアが開けられ、何者かが雪崩れ込んでくる。
――誰?
ミリアはアコーディオンドアの隙間から見た。
ライダージャケットに身を包み、髪型をリーゼントにした二人の男。顔に見覚えはなかった。どちらも獰猛な犬みたいな顔つきをしている。
「留守か?」
「靴はあった。中にいるはずだ」
「いつも履いてる靴とは限らねえだろ」
「桜野ミリアは、通学中にはローファー、出かけるときはスニーカーを履いているが、どちらも家にあった」
男達が自分の話をしているのに気がつくのに少し間があった。
この男達、私に何か用があって来てる。
見知らぬ人間たちに自分の習慣が把握されている恐怖に加え、強い〈何故〉がミリアをさいなんだ。
「隠れてやがる。探せ」
「いつも一緒にいるガイジンは留守か」
「そのようだ。戻ってくる前に拉致るぞ」
理由は分からないが、とにかく自分は狙われている。
心臓が高鳴る。
絶対にここにいることがバレちゃダメだ。
あの人たちが自分になにか危害を加えるつもりなのは、おそらく間違いない。
男たちはベッドのシーツをはぎ取り、ベッドの下をあさり、本棚をひっくり返した。
重たい本の角が床を打つ音が響き渡る。
「顔は知ってんだよな?」
男の手のひらにスマホの画面が提示された。そこにはミリアと麗亜が映っていた。
「どっちの女だ」
「髪の長い方だ」
「ふうん」
それから、男の一人がクローゼットに近づいてくる。
開けないで!
神に祈るが、無情にもアコーディオンドアは横にスライドされた。
部屋に入ってきた男は、ミリアを拉致しにきたらしい。なぜ? なんのために? ミリアの隠れたドアが引かれた――。




