59.テレビ通話
ブロードのもとに、麗亜、フィリックスと立て続けに電話がかかってくる。用件はもちろんパーティの話。ミリアに内緒にしたまま、こっそり事態が進む。
電話は麗亜からだ。出ようかどうか迷っていると、「いいよ、そっちを優先して」とミリアが言ってくれた。
ブロードは電話に出た。
『サプライズ・パーティーのこと』
開口一番に麗亜は言った。会話が漏れ聞こえてはまずい。ブロードは何気なさを装って階段を登り、自室のドアを後ろ手に閉めた。
麗亜はパーティのときの食事を提案した。ミリアの好きなスパゲッティ――アラビアータやミートソース、アンチョビのピザのほか、サフィーがターキッシュ・デライトを持ってくると提案したという。ブロードは賛成した。
『ところでブロードくん』
「どうしたの?」
『私ってタレント向きだと思う? きょう、朱子と町を歩いていたら、アイドル事務所からスカウトされたの。あの北海道のローカルタレントがいるところ。種村美咲さんだっけ』
「麗亜には、華やかなところがあるし、人前に出る仕事は向いてるんだと思う。健全な事務所でタレント活動する分にはいいんじゃないか」
これを聞いて麗亜は気をよくしたらしく、通話を終える頃にはすっかり上機嫌になっていた。
間髪入れずまた電話が掛かってきた。今度は誰だ? 朱子か?
と思っていたら、フィリックスだった。彼はテレビ電話をよこした。
『ハイ、ブロード』
どこかカフェと思しきところにいるようだ。酒が入っているらしく上機嫌だ。隣にはサフィーがいて彼女はコーヒーを飲んでいるようだった。
「どうしたんだい? サプライズ・パーティーの相談?」
『その通り。今からカフェに来ないか? パーティーの話もしたいし、何より見せたいものがあるんだよ』
フィリックスは古い本を手に取り、画面に登場させた。装丁は粗末で、一応表紙はあるがタイトルは何も書かれていない。本というよりは紙束と言ったほうが適当だ。紙も年季が入っていて黄ばんでいる。
「それは何だい?」
『おばあちゃんの持っていた魔術書だよ。前に話しただろう?』
フィリックスは言った。
「本当にあったのか!」
『あなたって、本当におばあちゃんのことが好きよね。たしかにアヤしい本よ。よく分からない未知の言語で書かれているの』
サフィーは、カメラの前で紙をパラパラとめくった。そこに描かれた文字が目に入った。ブロードは目を見開いた。
「サフィー、文字がよく見えるように映してくれないか?」
『いいわよ。こう?』
スマートフォンの画面いっぱいに映し出される文字。目に映ったものが信じられず、眩暈に似た心地を覚える。唇が震える。
『今すぐ行くよ』
ブロードは電話を切った。頭がボーッとする。今見たものが幻覚じゃないかという気になっている。人の目は都合のいいものを見てしまうものだ。だから、元の世界の文字が書かれているかのように脳が幻覚を見せたのかもしれない。
ブロードは、スマートフォンでタクシーを手配すると玄関に向かう。途中、ミリアと鉢合わせした。
「どうしたのそんなに慌てて?」
不思議そうにミリアが尋ねた。
「ちょっとフィリックス達と会ってくる」
くるりと首を回し、
「ミリアも行くか?」
ミリアは、少し考えてから、
「楽しそうだけど、私は遠慮しておくわ。明日は休みだけど、もう遅いし、勉強もしなきゃだし」
「そうか。じゃあ、出掛けてくるよ」
ブロードは階段をかけおり、玄関に飛び出した。雲が空を覆っていて暗い夜だった。冷たい風が肌をかすめていった。どこかから犬の遠吠えが聞こえてきた。ブロードはタクシーを待った。
ブロードはわが目を疑った。フィリックスが差し出した「魔術書」に書かれていた文字を目にして。それは――。




