56.目撃したもの
グリフィンの曳く車に乗ったバーリント、アンディゴ、ギリアンの三人。王命を受けて、蛮族の活動の調査に赴く。
ギリアンが車に乗り込んだのを見計らい、ランディはドアを閉めた。そして鞭をふるうと、グリフィンたちが羽をはばたかせた。すると、車の前方が持ち上がり、その後車全体が、レッドマイア邸のはるか上空へと浮かび上がった。
「この瞬間はいつも緊張するなあ」
ギリアンは言った。メガネ姿であることと髪が短いことを除けば、当然のことながら顔つきはブロードそっくりだ。
「あの、二人はどういう知り合いだったのですか?」
バーリントンは言った。
「ギリアンの文献調査隊に、俺が警護としてついたのが最初だな」アンディゴは噛みタバコを口に含みながら言った。「コイツは変わり者で、平民も貴族も分けへだてなく接する。会って以来友人だ」
「アンディゴはいいやつだ。酒を酌み交わすのが楽しい相手でね」
「お前はすぐ赤くなるじゃないか」
「からかわないでくれよ。僕は、バーリントンくんとアンディゴの関係が気になるね」
ギリアンの疑問に、バーリントンは説明した。
「なるほど。あの戦場で会ったのか」
そう言ったあとにギリアンが遠い目をしたのは、ブロードに思いを馳せたからに他ならない。
ブロードが姿を消して一年。その家族はどういう思いを抱いていたのだろうか。想像するにやるせない。
「弟とはケンカしたまま別れてしまった。どうにか仲直りしたかったよ。反応はないんだね――おっと、ごめん、さっきも聞いたばかりだね」
「――残念ながら」
「あの強い兄ちゃんね。まさかギリアンの弟だったとはな。世の中せまいもんだ」
アンディゴは、酒瓶をあおった。
「そう強い酒ばかり飲んでいては胃にさわるぞ」
ギリアンは懐中から小瓶を取り出す。小瓶のなかは茶色の液体が詰まっていた。
「なんだこれは?」
「植物から抽出した胃薬だ。これを飲めば悪酔いしなくなる」
「酔っ払うようなヤワな体はしてないぜ」
「いまは若いから無事なだけだ。年齢になってみろ。うちの父のように腹を病むぞ」
ギリアンは人差し指を立てて言った。ブロードと生き写しのその顔つきに、バーリントンは不思議な思いに駆られた。まるでブロードの人格がすっかり真逆になってしまったかのようだ。
バーリントンたちを乗せた車はいくつもの山を越えていった。その中の一つには例の異世界につながる門の小屋がある。
「さっき聞いた通り、帰りはそこに君を下ろせばいいんだね」
ギリアンは言った。
「はい。ちょうど僕が番をする時期に当たっていましたので」
「無事に帰ってこれるといいがな」
アンディゴは口元に笑いを浮かべながら言った。
「そういう脅しはするもんじゃない」
ギリアンは頭を抱えながら言った。
「大丈夫です。何があってもアンディゴ兵士長の命は僕がお守りしますから」
「言うようになったじゃねえか、回復術士」
その時だった。
キィエエエエエ! グリフィンの悲鳴が外から届いた。
「なんだ⁉︎」
「外からだ」
アンディゴは窓の外に身を乗り出した。
バーリントンも見た。
はっと息を呑んだ。届きはしないものの、何本もの弓矢がこちらに向けて放たれていた。この弓矢の波状攻撃には見覚えがあった。
「蛮族だ!」
「どうしてここに⁉︎」
ギリアンは叫んだ。
窓の外では、紐帯で車に体を縛りつけたランディが、悲鳴を上げていた。
一本の矢が今まさにグリフィンへの一匹へと襲いかかろうとしていた。
しかし、それは軌道をそれていった。
「何が起こった? 回復術士、お前の魔術か?」
「魔術師です。僕の風の魔術でそらしました」
「やるじゃねえか、魔術師」
アンディゴはバーリントンの肩をガシッとつかんだ。だが、その目の鋭さは消えてはいなかった。
「ここはまだアラバード国の領内だ。なんでここに奴らが……」
窓の外を見やったアンディゴが目を驚愕に見開いた。
「なんだアレは!」
「嘘だろう……」
ギリアンも同様の表情を浮かべた。
そして、バーリントンも目を張り、唇を震わせた。
「アレは……一体」
塔のように高いシルエット――その軍勢の姿を、バーリントンは目撃した。
巨塔のごとくそびえ立つ軍勢を前に、三人は驚愕する。一体何を目撃したのか……。




