55.蛮族探索隊
アラバード国のバーリントンがやってきたのは、レッドマイア家の土地だった。彼が呼ばれた理由とは……。
「意外って顔してるな」その男は、バーリントンの姿を目にするなり相好を崩した。「まさか、お前とこんなところで会うなんて思いもしなかったぜ。元気してるか、回復術士」
「アンディゴ兵士長」
バーリントンは言った。
「お久しぶりです。あの戦場以来ですね」
「二人は知り合いなのか?」
ギリアンはメガネの奥で目を丸くした。
「意外なところでつながりはあるもんだな」
「そういうもんだぜ。そんなことにいちいち気を取られるなんざ、メガネの坊ちゃんもまだまだだな」
その声が聞こえてきたのは、鳥籠の中からだった。
「ハトが話してる⁉︎」
アンディゴはハッと目を剥いた。さしもの彼にも意外に過ぎたのだろう。
「ハトが話しちゃ悪いかよ」
クリスタルは言った。
「驚かせてごめんなさい、アンディゴ兵士長。この子はクリスタル。王様からたまわったハトなの」
ミリアが言った。
「ったく、魔術をつかう連中は、想像を超えるようなものを次々と用意しやがるぜ」
そう言ってアンディゴは傷の跡の残るほおをポリポリとかいた。
「それにしても、ギリアン殿。バーリントン殿はずいぶん軽装でいらっしゃるが、これで作戦に参加するのは可能なのかね」
「彼なら心配ない。いまや新月級の魔術師だ。食料も魔術で用意できるし、強力な空気のバリアで身体を覆うことだってできる。これは鉄の鎧よりも効果的なんだ」
「そいつはなんというかすげえな」
アンディゴは、己の装備品に目をやる。青銅の鎧。豚革製のベルト。鋼鉄の剣。ごく一般的な兵士の装備だ。背中には皮袋を背負っている。
対するバーリントンやギリアンはローブに杖といったシンプルな出たち。
「これから決死の作戦に出る姿には見えねえのがすげえ」
「準備ができました」
ランディが言った。小太りなその男が腰を下ろしているのはいつもの馬車の御者台ではない。
カルルルル。
鳴き声がした。そこに生き物がいた。ライオンの体に鷲の頭と羽根――グリフィンである。人間の頭を容易にくだくであろう鋭い前脚の爪で地面に立ち、クチバシに開いた鼻腔からは熱風を吹き出している。
この猛獣をランディのような小男が飼い慣らしているという事実が、バーリントンには興味深かった。ランディがグリフィンの頭をなでても、気高いこの生き物は、反発するどころか目を細めている。
このグリフィンが車の四方を囲んでいる。
「何している。乗り込むぞ」
アンディゴが言った。
「ええ」
二人は乗り込んだ。中は通常の車よりはせまく、手狭だった。
これでギリアンが乗り込んだらずいぶん窮屈になってしまうだろう。
ギリアンはというと、その伴侶のミリアと向かい合いながら、いつまでも別れを惜しんでいる。
「無茶しないで。危ないと思ったらすぐ帰ってきてね」
「もちろんさ。でも、これは王命でもある。蛮族たちが何を発掘しようとしているのかしっかり探ってこないと」
「気を付けて」
ギリアンとミリアは口付けをかわした。美男美女だからとても絵になる。まるで王室に飾られている油絵のような見事な瞬間をバーリントンは目撃した。
「にいちゃん、あんまりジロジロ見てんじゃねえぞ」鳥かごのなかからクリスタルが言った。「まあ、気を付けてな」
バーリントン、アンディゴ、ギリアンは蛮族の調査へと向かう。




