52.ノーザン・エンペラー
総司のガラの悪い友人・重吾が、桜野家を訪れる。ブロードは重吾と打ち解ける。
昼下がり、ブロードは居間のテレビで映画を見ていた。
ギャングが銃の撃ち合いをするシーンがあった。物陰に隠れて、大勢の男たちが拳銃を打ち合う。主人公たちの腕は正確だが、敵の銃弾は一向に当たらない――そういうものだ。
銃は、この凍結世界にあるなかで、もっとも手軽な殺人道具だ。引き鉄を引くだけで相手の命を奪うほどのダメージを与えることができる。
それだけじゃない。さらに威力のある兵器を、ブロードはテレビやネットのニュース番組で見ていた。機関銃、榴弾砲、戦車、戦闘機、戦艦、原子爆弾。挙げていくときりがない。
これらに魔術を組み合わせて使ったら? 火炎や雷の力を込めて打ったらとても強い威力を発揮するのではないだろうか。
映画を見つづけていたら、画面のなかにロボットが出てきた。ロボットは、円筒形の頭に円筒形のボディ、手足の関節は球体で、そこから細長い複数の腕が脚が伸びているというレトロなデザイン。異世界人であるブロードから見ても荒唐無稽と思われた。
――子供だましだ、こんなの。見る映画を変えようか?
そんなことを考えていると玄関のベルがなった。
玄関に出ると、男が一人立っていた。
小太りで、金色に染めた頭を逆立てている。まぶたは厚く、細い目は開いているのか閉じているのか分からなかった。金色のスカジャンに、膝のところがくたびれたジーンズ。エアマックスのスニーカーを履いていた。
男はブロードをじっと見つめて「総司くんいる?」とたずねてきた。野太い声だった。
「総司は留守だ」
「あんたは誰?」
むしろこっちが聞きたい質問だったが、ブロードは辛抱強く答えた。
「ブロード・レッドマイア。この家の居候だ」
「ああ、総司君がそんな人がいるって話してたっけね」
小太りの男は人懐っこい笑みを浮かべた。いかつい外見とは裏腹にのんびりとした口調だった。
「総司君に家で待ってろって言われてんだ。お邪魔していいかな。んで、あんた暇なら少し話さねえか。酒もあるんだ」
小太りの男は片手に酒瓶を持っていた――瓶と言ってもプラスチック製だが。
「お酒は歓迎したいところだが、ミリアに止められている。元の国では、何歳からでも飲めたんだが、日本では二十歳からじゃないと飲めないから」
それを言ったらブロードは適正な身分証を持たぬ不法入国者でもある。厳重に人の出入りを管理している国家から見れば異世界からの来訪者は、歓迎されていないのだ。ちなみに、スマホの契約はミリアの名義でなされている。
「もちろん、家には上がってくれ。こちらはコーラで付き合おう」
「いいね。では遠慮なく」
彼は名前を横道重吾と名乗った。ノーザン・エンペラーの一番隊隊長の肩書きを付けて。
「ノーザン・エンペラー?」
「おうよ、聞いたことないか?」
重吾は、ブロードの部屋のベッドサイドにわが物顔で腰掛け、日本酒をぐいぐいと飲んだ。日本酒といってもリットル単位で売られている安酒だ。
「申し訳ないが聞いたことがない」
「なら教えよう」
ノーザン・エンペラー。
それは札幌を拠点に活動する暴走族の一団である。リーダーはなんと桜野総司その人だ。総司は、たった一人で校内の不良グループをまとめ上げ、エンペラーを立ち上げた。その時の創設メンバーは、重吾によると『ビッグ・シックス』と呼ばれているらしい。
「暴走族って知ってるよな?」
「バイクの走り屋だろう? テレビで見た」
「バイクだけじゃないんだが、まあ」
重吾はエンペラーと対立する怒楽炉悪のリーダーだったが、エンペラーとの勝負に負けて軍門に降り、今では一番隊の隊長を任されている。
「今じゃ一番のマブダチってとこだな」
「マブダチとは『ズッ友』と同じ意味か?」
「ギャルみたいな言葉使うんだな。お前、ギャル男か?」重吾は眉をしかめた。「多分それで合ってるよ」
「重吾、もしかしたら一ヶ月前の夜、路上を鉄の馬……いやバイクで走っていなかったか? もしかしたら、そのとき君を見かけたかも知れない」
「俺はいつでも走ってるぜ。なんだ、俺の勇姿もう見られてたのかよ」
ノーザン・エンペラーは毎晩、札幌の街を疾走する。警察に追われるならず者なのだ。
「ここ最近総司がピリピリしているのも、ノーザン・エンペラー絡みか?」
重吾は飲み掛けのコップをベットサイドテーブルに置き、うつむいた。しばらく押し黙ったあと、
「その通りだ。ノーザン・エンペラーはちょっと問題を抱えてる」
と言った。
重吾と打ち解けたブロード。重吾はノーザン・エンペラーの抱えている問題を語りはじめる。




