51.マジック
魔術師ブロードがフィリックスに電話をする。面白い事実が明らかになる。フィリックスのおばあちゃんは魔術師だったのだ。
ブロードは画面に人差し指の腹を走らせ、フィリックスの番号を呼び出す。
『ハイ、ブロード』
画面にフィリックスの巨体が写った。隣にはサフィーもいる。フィリックスと写っているとサフィーはとても小柄に見えた。
サフィーとフィリックスは、寄り添ってソファに座っていた。どこかカフェにいるらしい。
「いま時間あるかい?」
「いいよ。どうかした?」
サプライズパーティのことを伝えた。
『いいねえ。楽しそうじゃないか』
『ミリアには素敵な友だちがいるのね。すばらしいことだわ』
「よかったよ。日にちはあとで朱子が調整する。詳しくは後で連絡するよ」
『こういうの久しぶり。誕生日までバラさないようにしていられる今からドキドキだわ』
サフィーははずんだ声で言った。
『当日はマジックでも披露しようかな。僕はマジックが得意なんだよ』
フィリックスが言った。
「マジックか。僕にも使えたらな」
『簡単なやつなら教えようか?』
「ああ、誕生日までにぜひ頼むよ」
『僕のマジックにびっくりすると思うよ。ねえ聞いて、僕のおばあちゃんは魔術師だったんだよ。僕にもその素質が受け継がれているんだろうな』
『またその話?』
サフィーがおだやかな微笑を浮かべた。
「魔術師?」
『そうさ。エチオピアからのフランスへの移民で、現地にいたときに魔術師の弟子になったんだって。その師匠が書き残した日記があるんだよ。興味あるかい』
「それはとっても面白そうだね」
ふとスマホの充電のレベルが下がっていることに気づく。
「ごめん、充電が切れそうだ」
『おっと。残念。魔術の話はまた今度ね。バイ』
「バイ」
ブロードは電話台の上の充電器にスマホを挿した。スマホを手放すと一気に手持ちぶさたになる。ブロードは息を吸い、手を伸ばした。
日本に来てから一ヶ月。
つまり、ブロードが凍結世界に来てから一ヶ月。
この間色々なことがあった。
ブロードは、自分自身のPCを買い、スマホを買った。金は指輪や装飾品を売って工面した。売った中には魔術的な力を帯びた家宝もあれば、王から賜ったものもあった。
この世界で生き延び、かつ、情報や知識を得るのには犠牲を払わなくてはならない。ブロードは手放すことに決めた。
売る店舗を見誤るとボられる可能性があるというフィリックスのアドバイスに従い、インターネットで販売した。トータルでおよそ三百万円ほどになった。
『働くもの食うべからず』というすこし意地の悪い警句に突き動かされた訳ではないが、ミリアの家の経済状況を知り、自分もミリアに金を入れることにした。働くことにしたのである。幸い、サフィーが働き口を用意してくれた。
サフィーのやっているIT企業のプログラマーだ。C言語にはじまり、PythonやRubyといったプログラム言語を学習した。これらは英語に考え方が近く、英語を覚えた後では、学習が容易だった。この技能を活かして、ソフトウェアの開発に協力することにした。
プログラミングは、凍結世界における魔術のようなものだ。呪文を唱えれば奇跡を起こせるように、コードを書けばさまざまな便利なことができるようになる。
――それにしても、フィリックスのおばあちゃんが魔術師? なるほど。それは面白い。フィリックスは魔術師と手品師を誤解しているようだった。その日記とやらにはよほど面白い手品が記述されているのだろうか。
それでも関心は尽きない。なぜなら、ブロードは(一瞬だけど)マナを動かすことができた。そのコツさえ分かれば従来通りこの世界で魔術を使うことさえできるはずだ。それが何年後になるかはわからない。十年後かも知れないし、百年後かも知れない。それでも希望は捨てない。それまでブロードがやることは凍結世界の知識をためこみ続けることなのだ。
仕事を得て、なんとか凍結世界に暮らしているブロード。それでも、アラバード国の魔術師としてこの世界の探求をあきらめない気持ちをあらたにする。




