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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
第四章 都市生活
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50.サプライズパーティー

異世界の魔術師ブロードが〈凍結世界〉にやってきておよそ一ヶ月。魔術こそ使えなくなったが、そこそこ楽しく過ごしていた。そこに、ミリアへのサプライズパーティーの企画が持ち上がる。

 ブロードは、スマートフォンを開いてSNSのアプリを開いた。画面をスワイプすると、タイムラインに無数の画像と文字がなだれを打って表示された。

 麗亜は、先週末家族旅行で訪れた十和田湖(とわだこ)のすてきな写真を投稿。夕日に照らされた水面が美しい。ミリアと朱子が『いいね』していた。

 朱子は『もう初夏! ってことで新調しました!』と刺激的な黄ビキニ姿をアップ。ドンと五百ものいいねがついた。寺田という知らないやつが「むほほ、最高です」とコメントした。

 サフィーは友達が札幌のデパートで買ったと言う『ターキッシュ・デライト』の画像をシェア。歯ごたえがよく甘いトルコのお菓子らしい。イチゴの果肉みたいな赤い色合いが、食欲をそそる。

 フィリックスは、坂本九の『SUKIYAKI』のギター弾き語り動画をアップ。日本語のほか、英語やフランス語でたくさんのコメントがついた。


 玄関のチャイムがなり、配達員が、ハンバーガーとポテトとコーラのセットを運んできた。女性の配達員はブロードの姿を一目見て、顔をポッと赤らめた。

 ブロードはほほえんだ。

 居間に戻って、スマホの画面を見る。スワイプして画面を更新すると、ミリアの撮った画像がアップされた。

『登校中に散歩しているかわいいワンちゃんを発見! 飼い主さんに許可をもらって撮らせてもらいました』。ウェルシュ・コーギー・ペンブロークのコーギースマイルが画面いっぱいに広がる。ブロードはいいねした。


 ハンバーガーとポテトの昼食を食べ終わって、紙の容器を片付けていると、朱子から通話があった。ブロードは応答した。

『おーっす!』

 相変わらず元気な朱子の声。

「おーっす」

『ブロードさ、今ヒマ? ちょっと相談があるんだけどいいかな?』

「どうしたの? いま授業中じゃないの?」


『午後はサボった』朱子はアハハと笑った。『来週の土曜、ミリアのバースデーじゃん? それでさ、サプライズでお祝いしたいねって麗亜と話してたの。協力してくれる?』

「楽しそうだね。とてもいいアイデアだと思う」

 ブロードはカウチソファに腰を下ろした。窓の外には梅雨の季節とは思えないような青空が広がっている。こう言う日はフラッと外に出て散歩したくなる。

『いいアイデアだべ? プレゼントは私たちが考えておくから、ブロードには協力者を集めて欲しいんだな。会社のひと、サピーさんとフリックスさんだっけ? 誘っておいてくれないかな』

「サフィーとフィリックス」

『そう、その人たち』

「彼らもパーティ好きだから乗ってくると思うよ。わかった。声掛けておく」


『そうそう、それから一応弟君にも声掛けておいてくれないかな?』

「弟? 総司のことか?」

 ブロードは、われ知らず(かた)い声になってしまったことに気がつく。

『ありゃ。やっぱり仲良くはない感じ?』

「彼のことは嫌い。初対面以来あまり話をしてない」

『アハハ、外人さんははっきりものを言うよね。まあ、私もなんかあんまり懐かれてないけどさ。姉弟なわけだし一応誘っておくのが筋かなと思ったんだよ。まあ、ここは友達だけでやるのがベストかな。忘れてちょうだい』

「そうさせてもらうよ」

 総司とは仲良くなる努力を続けたが、あいさつは無視されるし、大福(だいふく)をプレゼントしても捨てられるし、拒絶されてばかりだった。特に、最近は何か腹立たしいことがあったらしく、何もしなくてもピリピリしている。仲良くなろうとは少しも思わない。たとえミリアの実の弟であろうとも。


『しかしさあ、ブロードも上手くなったよね、日本語。もう私より上手だよ。まだ日本に来てから一ヶ月でしょ? マジすげーよ』

「たいていの外国人は、君より日本語上手だよ」

『オッ。覚えてろよオメー。今度会った時、とっちめてやるぞ。あ、そうだ。今一人でお茶してんのよ。ヒマならあんたも来ない?』

「そうだな今日は」

 ちらりと居間のテーブルの上にある封筒に目をやる。本日ぶんの仕事を片付けたばかりだ。少しぐらい遊んでもバチは当たらないだろう。


『やっぱりやめ。今のなし』朱子が言った。『あんたと二人でデートしたと知られたら麗亜に殺されるよ。なんだかんだ言って、まの子あいつあんたのこと好きみたいなんだ』

「気づいてた。彼女は僕と同じぐらい執念(しゅうねん)深いみたいだ」

『あんたも兄嫁を忘れられてないのね。悲しいわね』

「それ以前に、授業サボったって知られたらまたミリアに怒られるよ。日数足りなくて一緒に卒業できなくなったらどうするのって」

『それもそーだね。今日は大人しくしてようかな。んじゃ、また。サフィーとフィリックスの件よろすこ』

「バイバイ」


サプライズパーティーの話が進む。これから、ブロードはサフィーとフィリックスを誘わなくてはいけない。すこし忙しくなりそうだ。

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