50.サプライズパーティー
異世界の魔術師ブロードが〈凍結世界〉にやってきておよそ一ヶ月。魔術こそ使えなくなったが、そこそこ楽しく過ごしていた。そこに、ミリアへのサプライズパーティーの企画が持ち上がる。
ブロードは、スマートフォンを開いてSNSのアプリを開いた。画面をスワイプすると、タイムラインに無数の画像と文字がなだれを打って表示された。
麗亜は、先週末家族旅行で訪れた十和田湖のすてきな写真を投稿。夕日に照らされた水面が美しい。ミリアと朱子が『いいね』していた。
朱子は『もう初夏! ってことで新調しました!』と刺激的な黄ビキニ姿をアップ。ドンと五百ものいいねがついた。寺田という知らないやつが「むほほ、最高です」とコメントした。
サフィーは友達が札幌のデパートで買ったと言う『ターキッシュ・デライト』の画像をシェア。歯ごたえがよく甘いトルコのお菓子らしい。イチゴの果肉みたいな赤い色合いが、食欲をそそる。
フィリックスは、坂本九の『SUKIYAKI』のギター弾き語り動画をアップ。日本語のほか、英語やフランス語でたくさんのコメントがついた。
玄関のチャイムがなり、配達員が、ハンバーガーとポテトとコーラのセットを運んできた。女性の配達員はブロードの姿を一目見て、顔をポッと赤らめた。
ブロードはほほえんだ。
居間に戻って、スマホの画面を見る。スワイプして画面を更新すると、ミリアの撮った画像がアップされた。
『登校中に散歩しているかわいいワンちゃんを発見! 飼い主さんに許可をもらって撮らせてもらいました』。ウェルシュ・コーギー・ペンブロークのコーギースマイルが画面いっぱいに広がる。ブロードはいいねした。
ハンバーガーとポテトの昼食を食べ終わって、紙の容器を片付けていると、朱子から通話があった。ブロードは応答した。
『おーっす!』
相変わらず元気な朱子の声。
「おーっす」
『ブロードさ、今ヒマ? ちょっと相談があるんだけどいいかな?』
「どうしたの? いま授業中じゃないの?」
『午後はサボった』朱子はアハハと笑った。『来週の土曜、ミリアのバースデーじゃん? それでさ、サプライズでお祝いしたいねって麗亜と話してたの。協力してくれる?』
「楽しそうだね。とてもいいアイデアだと思う」
ブロードはカウチソファに腰を下ろした。窓の外には梅雨の季節とは思えないような青空が広がっている。こう言う日はフラッと外に出て散歩したくなる。
『いいアイデアだべ? プレゼントは私たちが考えておくから、ブロードには協力者を集めて欲しいんだな。会社のひと、サピーさんとフリックスさんだっけ? 誘っておいてくれないかな』
「サフィーとフィリックス」
『そう、その人たち』
「彼らもパーティ好きだから乗ってくると思うよ。わかった。声掛けておく」
『そうそう、それから一応弟君にも声掛けておいてくれないかな?』
「弟? 総司のことか?」
ブロードは、われ知らず硬い声になってしまったことに気がつく。
『ありゃ。やっぱり仲良くはない感じ?』
「彼のことは嫌い。初対面以来あまり話をしてない」
『アハハ、外人さんははっきりものを言うよね。まあ、私もなんかあんまり懐かれてないけどさ。姉弟なわけだし一応誘っておくのが筋かなと思ったんだよ。まあ、ここは友達だけでやるのがベストかな。忘れてちょうだい』
「そうさせてもらうよ」
総司とは仲良くなる努力を続けたが、あいさつは無視されるし、大福をプレゼントしても捨てられるし、拒絶されてばかりだった。特に、最近は何か腹立たしいことがあったらしく、何もしなくてもピリピリしている。仲良くなろうとは少しも思わない。たとえミリアの実の弟であろうとも。
『しかしさあ、ブロードも上手くなったよね、日本語。もう私より上手だよ。まだ日本に来てから一ヶ月でしょ? マジすげーよ』
「たいていの外国人は、君より日本語上手だよ」
『オッ。覚えてろよオメー。今度会った時、とっちめてやるぞ。あ、そうだ。今一人でお茶してんのよ。ヒマならあんたも来ない?』
「そうだな今日は」
ちらりと居間のテーブルの上にある封筒に目をやる。本日ぶんの仕事を片付けたばかりだ。少しぐらい遊んでもバチは当たらないだろう。
『やっぱりやめ。今のなし』朱子が言った。『あんたと二人でデートしたと知られたら麗亜に殺されるよ。なんだかんだ言って、まの子あいつあんたのこと好きみたいなんだ』
「気づいてた。彼女は僕と同じぐらい執念深いみたいだ」
『あんたも兄嫁を忘れられてないのね。悲しいわね』
「それ以前に、授業サボったって知られたらまたミリアに怒られるよ。日数足りなくて一緒に卒業できなくなったらどうするのって」
『それもそーだね。今日は大人しくしてようかな。んじゃ、また。サフィーとフィリックスの件よろすこ』
「バイバイ」
サプライズパーティーの話が進む。これから、ブロードはサフィーとフィリックスを誘わなくてはいけない。すこし忙しくなりそうだ。




