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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
第三章 無能力魔術師
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46.JK

ブロードに会いに来たという二人の女子――朱子と麗亜。朱子のくれたアイスを食べながら話をしていると、麗亜が突然こう切り出す。「私とお付き合いしてくれますか⁉︎」

「どこで僕のことを?」

 ブロードはたずねた。日本語は合っているだろうかという一抹(いちまつ)の不安を胸に抱きながら。

「ミリアの会社のホームページで見たんだよ。何このイケメンってミリアに聞いたら、家にいるっていうじゃん。こりゃナマで見なきゃって思って来たの。つーか、繰り返すけど、マジでイケメンじゃん!」

 朱子という女は言った。

「イケメンとは?」

「お兄さんがかっこいいってこと。名前は何?」

「僕はブロード・レッドマイア。僕はたしかにカッコいい」

「ブロードおもしれー!」

 ブロードが当然の事実を指摘すると、朱子はケラケラと笑った。


「コンビニでアイス買ってきたんだよ。一緒に食べない?」

「アイス?」

 三人で居間のテーブルを囲うように座った。朱子のさげ持っていた薄手のバッグの中から、これまた薄手の光沢袋に包まれたものをが姿を表した。それは冷気を放ち、指先で触れるとひんやりとした。

「なんだこれは!?」

「バニラ苦手だった? チョコバーもあるよ?」

 朱子がもぐもぐと食べているのを見て、ブロードもそれにならった。容器はすぐにやぶくことができ、なかに収納されていた固まりが姿を現した。

「冷凍料理か……」ブロードは口に含んだ。「うまいっ……!」

 舌を焼くような濃厚な甘味が、口の中でさらりとほどけた。アラバード国にも冷凍魔術を使った料理は存在するが、このような繊細(せんさい)な味わいを作り出すことはできていなかったように思われる。

「ブロードはどこから来たの?」

 朱子がきいた。そのスカートの膝の上には灰色の猫・ギリアンが丸くなって寝ている。

「アラバード」

「どこ、そこ?」

「遠く」

「へー。よくここまで来たよ。感心するよ。私なんて北海道から出たくないけどね。地元で就職するつもりだし」

「僕は、旅をする」

「旅人なんだね、ブロードは」


 朱子と話している間、もう一人の髪の長い女――麗亜はずっと黙っていた。アイスにも手をつけない。どこか具合が悪いのかとブロードがたずねると、

「えっ。無理無理無理。無理なんですけど。ブロードくん、タイプすぎる」

『無理』とは『不可能であること』を指す言葉だと理解していたブロードは、何が無理なのかをたずねたが、麗亜はそれに答えず、

「ミリアちゃんと付き合ってるのかなあ。いいなあ」と一人ぶつぶつ言ってる。


「あんた、王子様系タイプだもんね。そら直球だわ」

 朱子は、ギリアンの丸い背中をなでながら言った。

「あの、ブロードくんちょっといいですか?」

 身を乗り出し、麗亜は面と向かってきた。さらさらの髪。そこからただよってくるミントを思わせる華やかなにおい。ミリアほどではないが整った顔立ちをしている。

「今好きな子はいますか? いないなら私とお付き合いしてくれますか⁉︎」

 麗亜は言った。りんごみたいに真っ赤な顔になってしまった。

 ミリアの顔が浮かんだ。故郷にいるミリアのことだ。

「好きな子はいる」

 ブロードは答えた。

「秒でフラれたぁ」

 麗亜はよろよろと朱子に寄りかかる。ギリアンがにゃおんと鳴いた。

「それは? アラ・バードの子?」

 朱子がたずねた。

「そうだ。彼女は結婚した。僕の兄と」

「マジ?」

「えっ、無理。壮絶(そうぜつ)すぎる」

 朱子と麗亜はなぐさめてくれた。辛いよね。頑張れ! 君の方がいい男だよ、などなど。


 言いづらかった話を誰かに伝えた途端、ブロードはいくらか気持ちが楽になったのを感じた。思えば変な話だ。元の世界の誰にも自分の気持ちを打ち明けようとは思わなかった。それなのに異世界で異世界人を相手にしたら、こともなげに話している。きっと目の前にいる二人の気風が、ブロードにそうさせたに違いない。


「ありがとう朱子、ありがとう麗亜」

 ブロードは言った。握手の手を差し出す。朱子と麗亜は二人とも両手でブロードの片手を握ってきた。


異世界に来てようやく自分の気持ちを吐き出すことができたブロード。二人の女子に強い友情を感じる。

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