46.JK
ブロードに会いに来たという二人の女子――朱子と麗亜。朱子のくれたアイスを食べながら話をしていると、麗亜が突然こう切り出す。「私とお付き合いしてくれますか⁉︎」
「どこで僕のことを?」
ブロードはたずねた。日本語は合っているだろうかという一抹の不安を胸に抱きながら。
「ミリアの会社のホームページで見たんだよ。何このイケメンってミリアに聞いたら、家にいるっていうじゃん。こりゃナマで見なきゃって思って来たの。つーか、繰り返すけど、マジでイケメンじゃん!」
朱子という女は言った。
「イケメンとは?」
「お兄さんがかっこいいってこと。名前は何?」
「僕はブロード・レッドマイア。僕はたしかにカッコいい」
「ブロードおもしれー!」
ブロードが当然の事実を指摘すると、朱子はケラケラと笑った。
「コンビニでアイス買ってきたんだよ。一緒に食べない?」
「アイス?」
三人で居間のテーブルを囲うように座った。朱子のさげ持っていた薄手のバッグの中から、これまた薄手の光沢袋に包まれたものをが姿を表した。それは冷気を放ち、指先で触れるとひんやりとした。
「なんだこれは!?」
「バニラ苦手だった? チョコバーもあるよ?」
朱子がもぐもぐと食べているのを見て、ブロードもそれにならった。容器はすぐにやぶくことができ、なかに収納されていた固まりが姿を現した。
「冷凍料理か……」ブロードは口に含んだ。「うまいっ……!」
舌を焼くような濃厚な甘味が、口の中でさらりとほどけた。アラバード国にも冷凍魔術を使った料理は存在するが、このような繊細な味わいを作り出すことはできていなかったように思われる。
「ブロードはどこから来たの?」
朱子がきいた。そのスカートの膝の上には灰色の猫・ギリアンが丸くなって寝ている。
「アラバード」
「どこ、そこ?」
「遠く」
「へー。よくここまで来たよ。感心するよ。私なんて北海道から出たくないけどね。地元で就職するつもりだし」
「僕は、旅をする」
「旅人なんだね、ブロードは」
朱子と話している間、もう一人の髪の長い女――麗亜はずっと黙っていた。アイスにも手をつけない。どこか具合が悪いのかとブロードがたずねると、
「えっ。無理無理無理。無理なんですけど。ブロードくん、タイプすぎる」
『無理』とは『不可能であること』を指す言葉だと理解していたブロードは、何が無理なのかをたずねたが、麗亜はそれに答えず、
「ミリアちゃんと付き合ってるのかなあ。いいなあ」と一人ぶつぶつ言ってる。
「あんた、王子様系タイプだもんね。そら直球だわ」
朱子は、ギリアンの丸い背中をなでながら言った。
「あの、ブロードくんちょっといいですか?」
身を乗り出し、麗亜は面と向かってきた。さらさらの髪。そこからただよってくるミントを思わせる華やかなにおい。ミリアほどではないが整った顔立ちをしている。
「今好きな子はいますか? いないなら私とお付き合いしてくれますか⁉︎」
麗亜は言った。りんごみたいに真っ赤な顔になってしまった。
ミリアの顔が浮かんだ。故郷にいるミリアのことだ。
「好きな子はいる」
ブロードは答えた。
「秒でフラれたぁ」
麗亜はよろよろと朱子に寄りかかる。ギリアンがにゃおんと鳴いた。
「それは? アラ・バードの子?」
朱子がたずねた。
「そうだ。彼女は結婚した。僕の兄と」
「マジ?」
「えっ、無理。壮絶すぎる」
朱子と麗亜はなぐさめてくれた。辛いよね。頑張れ! 君の方がいい男だよ、などなど。
言いづらかった話を誰かに伝えた途端、ブロードはいくらか気持ちが楽になったのを感じた。思えば変な話だ。元の世界の誰にも自分の気持ちを打ち明けようとは思わなかった。それなのに異世界で異世界人を相手にしたら、こともなげに話している。きっと目の前にいる二人の気風が、ブロードにそうさせたに違いない。
「ありがとう朱子、ありがとう麗亜」
ブロードは言った。握手の手を差し出す。朱子と麗亜は二人とも両手でブロードの片手を握ってきた。
異世界に来てようやく自分の気持ちを吐き出すことができたブロード。二人の女子に強い友情を感じる。




