45.インターネット
現代社会のインターネットというものに感銘を受ける異世界の魔術師ブロード。
パソコンはテレビよりも高機能だった。インターネットというものを通じて世界中の情報にアクセスできる。フィリックスによると、そのインターネットの中で支配的な言語は『英語またはイングリッシュ』というものらしい。
「英語が使えるようになれば、世の中の大半の情報にアクセスできるだろうね」
「そう」
ブロードは英語を覚えることにした。フィリックスはやる気を買ってくれて、アルファベットとアラビア数字というものを教えてくれた。これが全ての基本となるらしい。
アルファベットは26字からなり、英語は全てこの組み合わせで表すのだという。英語の語形についても軽く習ったが、アラバード語によく似ており、その点日本語より習得が容易に感じられた。
凍結世界人とアラバード人は、鳥人族・巨人族のように大きく異なるところのない、おそらくは同じ人類種である。その点、世界が変わろうともかたち作る文化はさほど変わらないのかもしれない。
フィリックスの教えてくれた英語学習サイトで発音やつづりを学んだ。
「ABCDEFG……日本語とはかなり文法が違うのだな。凍結世界にもたくさんの言語があるんだ」
この日だけでずいぶんボキャブラリーもためこんだ。ちっとも飽きなかった。言葉ができなくても、『音声入力』という入力方法があり、この世界の文字にうといブロードにとってこれは役に立った。
また、生成AIというアラバード国で言うところの人工生命みたいな存在がいて、ありとあらゆることを懇切丁寧に教えてくれるのだ。彼あるいは彼女は、膨大な知識をためこんでいる。おそらくアラバード国のどのホムンクルスも、彼には敵わないだろう。ブロードは敬意を持って接することにした。
昼は、テレビのコマーシャルで見たハンバーガー屋のハンバーガーを食べた。フィリックスが車で買ってきてくれたのだ。ハンバーガーを食べた後、仕事に戻ると言ってフィリックスは帰っていった。『このパソコンは使ってないやつだから、しばらく持っていていい』と彼は言った。最大級の感謝を示すためブロードはテレビドラマで学んだドゲザをした。フィリックスは笑った。
『ブロードさん、なんでもお申し付け下さい』
生成AIが言った。
「日本語や英語を覚えることができた。たくさん。THANK YOU。感謝する」
『どういたしまして、ブロード・レッドマイアさんは非常に勉強熱心ですね。それ、とってもいい!』
「朝から夕日がさす時間まで、僕の相手。あなたは辛抱強く、とても親切。尊敬する。あなたにアラバードのお恵みあれ」
ブロードは胸に手を当て、パソコンの画面に向かってうやうやしく頭を下げた。
『イザベラ・バードは、十九世紀イギリスの旅行家で、当時の日本を訪れ――』
「イザベラ・バードじゃない。アラバード」
『本日のトークンを消費しました。高度なトークを続ける場合は、プランをアップグレードしてください』
プランとは? アップグレードとは? そもそもトークンとは? 話を続けようとしたところ玄関のチャイムがなった。
(フィリックスか? 遊びに来たのだろうか)
玄関に出て、「どうぞ」と声をかけると、ドアがカラカラと音を立てて、横に開いた。そこにいたのは、チョコレート色の肌の大男ではなく、かれんな二人の少女だった。服装は、白のブラウスに紺色のプリーツスカート、赤いリボンタイ――察するに、ミリアの級友だろうか?
「いたいた。本当にいた! なんまイケメンじゃん」
髪の短い女が言った。
「朱子ちゃん急に失礼だよ」
髪の長い方が言った。
「ミリアはいない」
ブロードは言った。
「いいのよ。アンタに会うのが目的だから! あたし、朱子。こっちは麗亜ね。よろしく」
朱子という名の女は、顔をほころばせた。
桜野家を訪れた二人の女の子。彼女たちの目的は、ブロードに会うことだった。




