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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
第三章 無能力魔術師
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44.パーソナル・コンピューター

晴れて桜野家の居候となった異世界の魔術師ブロード。そんな彼のもとに友人のフィリックスが持参してきたものとは……。

 どうやら来客のようだ。召使いがいれば出迎えさせたのだが、あいにく桜野家にはいない。どうしようか思案していると、

「おーい、ブロードいるかい? 僕だ、フィリックスだ」

 玄関から声がした。

 友人にして恩人のフィリックスだ。ブロードは自ら出迎えることにした。


 玄関に行くと、フィリックスが巨体を引っ提げ中に入ってきた。荷物があり、手にはバッグが握られている。

「似合うよ、その服。あのね、君が退屈しているんじゃないかと思ってさ。面白いものを持ってきたんだ。お邪魔するよ」

 フィリックスは、居間のカウチソファに座ると、バッグから荷物を取り出した。

「これは何?」

 それはテレビに似ていた。桜野家の今に置かれているものに比べて一回り小さく、細かい文字が描かれた(ばん)の目状に無数のボタンがついた板が付随(ふずい)している。


「ノートPCだよ。パーソナルコンピューター。日本じゃパソコンと呼ぶ人が多いね」

「パソコン?」

「知らなかったでしょ? サフィーと賭けたんだ。君がパソコンのことを知らないのに千円を。やったね。僕の勝ちだ」

 フィリックスは、パソコンのスイッチを押した。光の明滅とともに、デスクトップ画面が表示された。マウス(とフィリックスが教えてくれた)を操作して、画面の中で矢印を動かす。矢印が画面上をふらふら動いていく。


「なんていう面白い仕掛けだ!」

「面白いのはこれからだよ」

 矢印が何かのアイコンに重ねられた時、フィリックスの指は、マウスの天面を二回叩いた。すると、驚いたことに画面が一瞬に別の画面に塗り変わったのだ。

「パソコンは、自分で操作するテレビなの?」

「うーん、まあ、大体そんなところかな? それにしてもブロード、君は一日会わないだけでずいぶんと日本語が上手になったね」

フィリックスは感心した様子だ。


「ほら、検索サイトだ。何か調べたいことはあるかい?」

 フィリックスは、ギリアンの背中をなでながら言った。

「調べたいこと?」

 たくさんある。あるのだが、それを凍結世界の言語に置き換えることが難しい。

「何でもいいんだ。いま関心のあることでいい」

「それじゃあ」

 テレビに目がいく。コマーシャルをやっていた。以前食べた油で揚げたパンが映った。

「あれ」


「おお、ドーナツか」フィリックスは盤の目を指で叩く。カタカタと音がした。「見てて」

 すると、画面に文字と画像があふれた。文字については理解が及ばなかったが、画像なら分かる。おいしそうなドーナツがいくつも表示された。

「すごい!」

 ブロードは画面に食い入った。

「面白いだろう? 文字を入力すると情報が出てくるのさ。さらにほら、動画も見れる」

 今度はテレビのように動画が映った。動画はドーナツの作り方を説明したもので、粉を練り上げ、油で揚げ、砂糖をまぶすといった一連の作業を見せてくれた。

「面白いだろう?」

「面白い! すごい!」

「これを君に貸そうと思ってさ。まあいい暇つぶしになるだろ」

「ありがとう」

 ブロードは片手を差し出し、フィリックスは強く握った。テレビの中の人物がやるように握った手をぶんぶんと振る。

「ずいぶんと元気がいいな。ネットの世界は広大だぞ。じゃあ楽しもうぜ」


パソコンという文明の利器を手に入れたブロード。さて何を検索しよう?

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