42.どきどき
異世界よりやってきた魔術師ブロードと札幌の女子高生ミリアは、あやうくキスをしかけたことに動揺してしまう。まだお互いを知らなすぎる。波乱の一日が終わる。
配達員から荷物を受け取ったミリアは、顔のほてりが冷めるようにと手で顔をあおいだ。
あやうく雰囲気に流されるままに、ブロードとキスしてしまうところだった。総司が知ったら、やっぱり男じゃないかとあざわらってきそうだ。
ブロードは悪い人ではないけれど、こういうことをするには少しまだお互いを知らなすぎる。彼がどこの国の人かも分からないのだ。
届けられた荷物は、二点あった。ミリアの手芸用の毛糸と、叔父が夕張から送ってきた夕張メロンのゼリーの詰め合わせ。そうか、叔父は今北海道にいるのか。
ちょうどいい、今晩のデザートにしよう。明日バイトのときにサフィーとフィリックスにも持っていこう。総司の分も一応は残してやるか。総司はあれで叔父さんには懐いているから。
窓の外に目を向ければ、空はオレンジ色に輝いていた。
夕暮れ時だった。
その後ミリアは冷蔵庫の残り物で簡単な夕食(豚バラ肉と玉ねぎの炒め物、もやしのお味噌汁)を作り、ブロードと二人きりで食べた。ブロードはたくさん食べた。
『ミリア、こんなにおいしいものを僕は食べたことがないよ!』
目を輝かせてそう言うブロードの姿を見ていると、作りがいがあるように思えた。
その後は、ブロードがテレビに熱中していて、先ほどのアクシデントに言及しないでくれるのがありがたかった。
――とはいえ、ミリアはすっかり勉強に身が入らなかったが。
そして今、ミリアは薔薇の入浴剤を落とした湯船に浸かって、一息ついている。この入浴剤はサフィーからもらったトルコ製のもの。まるで生の薔薇を封じ込めたような香りが、熱とともに全身にしみわたっていく。
「この時が一番幸せかも」
ミリアは深く息をついた。
お客さんを迎えて初めての一日が終わった。やはりブロードは不思議な人だった。入浴のさいも、シャワーの使い方が分からなかったり、泡のボディソープを興味深げにながめていた。
車もないもない、カメラもない、テレビもない。そんな国が今この世界にあるのだろうか? 確かセンチネル族だったか――文明化されていない部族は、この世界にもまだいるみたいだけど、そっちの方が珍しいくらいだ。
彼は、実は宇宙人で遠くの銀河からやってきたのだ――なんて馬鹿げた話を想定した方が、ミリアには納得できるのであった。
ちゃぱちゃぱと湯船の中で手のひらを遊ばせる。まったく不安がないと言えば嘘になるけれど、なんとかなるよね。
父と母の顔が思い浮かぶ。総司によく似た父と、ミリアにはよく似た母。民宿をいとなんでいたふたりだが、海外旅行中に交通事故に遭って亡くなってしまった。
でも、嘆き悲しんでばかりはいられない。二人の思いは私が引き継ぐんだ。
波乱の一日が終わり、一息つくミリア。日常が戻ってくる。




