37.撮影
撮影を行うミリアとブロード。ミリアはブロードの美しさに気後れすら感じてしまう。
「じゃあ、撮っちゃおうか」
フィリックスは、ブロードの着替えと一緒に持ってきた一眼レフカメラを手に持ち、何やら設定をいじり始めた。
「あー、F値はコレ。シャッタースピードはコレ」
「なんだ、それは?」
ブロードはたずねた。
「これのこと? カメラよ」
ミリアは言った。
「カメラ?」
「じゃあ早速撮影するよ。ミリアもブロードもそこに立ってくれ。そう、その小高くなってるところだ。並んで。もっとよりそって」
ブロードほどの美形の男がとなりに並ぶと、ミリアは自分のファッションに隙がないか気になってしまう。フリルのついた白のブラウスに、ジーンズ地のスカート、膝までのブーツ。ネイルは橙色のを塗ってきた。サフィーはかわいいと言ってくれたけれど。
「ブロード、こっちを見て。そうそう、僕が指差してる所に視線をくれ。よーしじゃあ撮るぞ」
パシャ。パシャ。パシャ。
ブロードは無駄な動きをしないタイプだったので、写真に収めるのは楽だったようだ。それにしても、天性のモデルだと思った。そのルックス。背の高さ。ポーズの取り方も堂に入っていた。
ミリアも、何度か写真撮影におうじたことはあるが、ここまで堂々とはできなかった。
いま撮影しているのは、サフィーの会社のイメージ広告に使う写真で、草むらでポーズを取ったり、デッキチェアの上でノートパソコンを触るようなポーズを取った。
背中あわせでのショットを取るとき、肘と肘がふれあった。ミリアはどきりとした。気持ちが表情に出ていないか、隠すのに必死になった。
こうして並ぶと、彼って背が高いな……。
写真撮影はあっという間に終わった。
「ほら、カメラをみて」
フィリックスは言った。
「なんだこれは? 僕が額縁の中に収まっている⁉︎ これはテレビか!?」
カメラの小画面をみて、ブロードは目を見開き、大声を上げた。
「そんなによく撮れてるかい?」
フィリックスはブロードの反応に上機嫌だった。
「なるほど、これは現実の風景を絵画のように映しとる道具なのか! 何の魔力反応もないことを鑑みるに、これはマジックアイテムではないのだな!」
「ブロードは元気な人ねえ」
サフィーになでられたギリアンは、ごろごろと喉を鳴らした。
「んじゃ、引き上げようか。早く帰って『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の続きを見なきゃ」
サフィーとフィリックスは、カメラからレフ板からキャンピングテーブルまで、すべての荷物を車の中にしまいはじめた。ミリアも手伝った。
ブロードはというと、その熱心な視線を車にも注いでいた。
「車好きなの?」
「クルマ?」
「そう。日本語でクルマ」
「クルマ」
なんだか調子が狂う。車の日本語を初めて知ったというよりは、車そのものを初めて知ったという感じがする。サフィーの言う通とおり、中世時代から時を超えてまぎれこんできたと言われても、おかしくない。
荷物はしまい終わり、あとは出発するばかりになった。
「ブロード、君はどうする? 君の住んでいるところまで送るよ」
フィリックスにそう声をかけられたとき、ブロードはギリアンを抱き抱えてキョトンとしていた。
ブロードに住む家がないことをミリアは確信する。そして……。




