35.ハッピー・ミール
コーラに感激した異世界の魔術師ブロードは、今度はハンバーガーとフライドポテトを実食する。
「このまま放っておけば、踊り出しそうなほど上機嫌だけど、バーガーとポテトもあげましょうよ。この人腹ペコなんでしょ」と女。
「どうぞ。ゆっくり食べてね」とミリア。包装紙をほどいてやり、手渡してきた。
「これはどうやって食べたらいいのだ?」
戸惑っていると、ミリアがかぶりつくジェスチャーをして見せたので、ブロードはそうした。
「なんということだ。これまた……すばらしい味わいだ」
パンに肉をはさんだだけの単純な料理、それにもかかわらずブロードの度肝をぬいた。驚いたことにさまざまな味わいが同居していた。ビーフのしょっぱさ、トマトソースの甘さと酸っぱさ。生の葉物が食感にアクセントを加えている。どこをどう見ても下賤な料理なのに、王宮の料理人とて誰もこの味を超えるものを作れないだろう。
口のなかでかみくだいているうちに、思いいたった。これはギリアンが言っていた、くず肉料理なのではないだろうか――こんなにうまかったのか。
ポテトも、油で揚げ、塩をふっただけのシンプルきわまりないものだったが、ブロードの心をものすごい握力でつかんできた。ブロードはがつがつ食べた。
「すごい食べっぷりだ。ポテトのLサイズを空っぽにしたぞ」
「本当にすごくお腹が減っていたのね」
ミリアは眉根を寄せた。
「私の分も食べる?」と女。
「僕のもあるぞ」と男。
ブロードはありがたく頂戴し、全てたいらげた。
紙ナプキンで口の周りの汚れをぬぐい去った後、ブロードは三人の前に膝をつき、こうべを垂れた。
「わが名は、ブロード・レッドマイア。冠位半月級第五階梯、赤色の魔術師だ。此度の心尽くしのもてなし、心より感謝申し上げる。あなた方に命を救われた。この恩、いかなる代償を払おうとも報いてみせる」
「なんだかこの人、中世時代から来たみたいな態度よね」
女は感想を述べた。
「自己紹介しているのかな? 君の名前はブロードで合ってる? 僕はフィリックスだ」
フィリックスはウインクした。
「私はサフィー。よろしくね」
「フィリックス、サフィーという名前なのだな。よい名だ。響きがよい」
三人は握手を交わした。
「改めてってことで。私はミリア。桜野ミリア。よろしくね、ブロードくん」
「以前にも教えてもらったね。とても美しい名だ」
ブロードはミリアとも握手した。
「それから彼はギリアンという。私の友達だ」
ブロードの指差した先を、三人は見る。そこでは灰色の猫が食べこぼしのポテトにかじり付いていた。注目されていることを悟ると、「にゃあ」ギリアンはあいさつでもするかのように一声鳴いた。
礼を尽くしたもてなしに感激したブロードは、ミリア、サフィー、フィリックスの三人に恩を返すためならいかなることもすると宣言する。




