34.猫に会う
サフィーとフィリックスとともに、撮影兼ピクニックで公園を訪れたミリアは、一匹の猫と出会う。猫はミリアをどこかに誘い出そうとしているのだが……?
体を伸ばして息を吸う。五月の新鮮な空気。今日はよく晴れていて、日差しが心地いい。そろそろ長袖の季節も終わりかなーーミリアは思った。
「あのねフィリックス。スチール撮影のついでにピクニックというのは、いいアイデアだと思ったわよ。ここってすてきな公園だものね。ランチは任せてくれっていうから任せたけど、ファーストフード店のハンバーガーってのはないんじゃない?」
サフィーはジト目でフィリックスに詰めよった。
「えっ、なんで? ハンバーガーおいしいじゃない。公園の緑を見ながら食べるハンバーガーは最高だと思うよ」
おそらく自分が責められているのも知らず、フィリックスは甘いマスクに屈託のない笑顔を浮かべた。
「テリヤキバーガー、フィッシュフライバーガー、チーズバーガー。たくさんあるよ。どれがいい? ポテトもたくさん買ったし、チキンナゲットもサラダもある」
「はぁ」
サフィーはため息をつく。
「まあいいんじゃない、サフィー。私もハンバーガー好きよ」
ミリアはサフィーをなだめるように言った。
「ほら、味方がいた。ミリア、君はいい子だよねぇ」
「まあいいわ。さっさと食べて撮影を開始しましょう。フィリックス、あんたの友達はここに来るのよね? もうそろそろ約束の時間だけど」
「任せといてよ。えーと」。フィリックスはスマートフォンを操作する。それからチョコレート色の顔を硬直させた。「あー、問題発生」
「……今度は何?」
サフィーは言った。
「忘れてたって。今は彼女と富良野のラベンダー畑に向かっているらしい。お土産にラベンダー・キャンディーを買ってくれたって」
「もう、今日の撮影どうするのよ! まあいいわ、最悪ミリア一人いればいいもの。さあ、さっさとハンバーガーを食べて撮影に移りましょう」
おのおのキャンピングテーブルにつき、バーガー屋から買ってきた紙袋の中身を物色する。
「飲み物はコーラにウーロンティーにメロンソーダもあるぞ。一人分余分に買ってあるからたくさん飲んでくれよ」
「私はウーロンティーで」
サフィーが言った。
「君はコーラ好きなのに。ダイエットしてるから?」
「もうあなたって人は。これ以上デリカシーのないこと言うと別れるわよ」
「おお怖い。許してくれよ、ハニー」
サフィー・コーポレーションのランチ会場に闖入者が現れたのは、皆がバーガーの紙包装をほどき、今まさにかぶりつこうとしたその時だった。
にゃあ。
「まあ! 猫ちゃんよ!」
サフィーは顔を輝かせた。
全身灰色の猫だった。体つきは他のものよりひと回り小さく、かれんな顔立ちをしていた。
「ポテトよ。食べる?」
サフィーがさし出すが、猫は見向きもしない。後ろ足を草むらの地面に下ろし、じっとこちらを見つめ返すばかりだ。
「猫は好き?」
フィリックスがミリアにたずねた。
「ええ。好きよ。昔うちで飼ってたの。猫屋敷って言われるぐらいたくさん」
「ねえ、ミリア。この猫が何をしたがってるか分かる?」
「ええと」
ミリアは席を立って、猫の前に屈んだ。するとすぐに猫は飛び上がって距離を取った。
逃げられたか、と思ったが、猫はまだそこにいてミリアを見上げている。
にゃーお、猫が鳴いた。
ミリアがまた一歩近づくと猫は距離を取る。背中越しに振り返って、またにゃおんと鳴く。
「ついてこいってことかな?」
猫の歩くままに任せ、ミリアは草むらを歩いた。後ろからサフィーとフィリックスがついてきた。
「どこまで連れて行かれるのかしら、あたしたち?」
「きっと猫の住む猫の王国だよ」
猫はおおきなツツジの植え込みの隙間に飛び込んでいった。その向こうに何かあるのか? 植え込みの向こうは高い木が生えていて日当たりが悪く暗かった。車の走る音が聞こえる。さらに奥には車道が通っているようだ。
ミリアは、恐る恐るツツジの向こうをのぞきこんだ。そしてキャッと悲鳴を上げた。
「どうしたんだ!」
サフィーとフィリックスが急いで駆けつける。
「あっ!」
「人が倒れているわ!」
二人とも同じものを発見した。
猫が進んでいった暗がり。その場所で人が倒れているのをミリアを目撃する。




