33.鋼鉄の騎馬隊
魔術師ブロードが目的したのは、鉄の馬にのる若い騎兵隊の人間たちだった。こちらに危害をくわえる様子はなかったので、ブロードは安心する。
道路の上にひしめきあっているのは若い――それも皆ブロードくらい若い――男たちであった。彼らはならず者の雰囲気があったが、同時に戦士的でもあった。みな一様に黒革の防具を身につけている。剣や鎧こそなかったが、それらがいかにも似つかわしく見える。
ブルルル……。
彼らは、馬のようなものにまたがっていた。さっきの音はこの馬のいななきのようだった。
不思議な馬だった。車輪が付いていて、車のようにも見える。馬が車を孕ませ、生まれ落ちた子どものようだった。
「よっしゃー! ノーザン・エンペラー特攻するぞー!」
リーダー格と思われる男が叫び、周りを囲む男たちが気勢を上げた。
その男は、なにか動物の脂でも使ったのか、頭を逆立てていて、闘志をアピールしているようだった。
「亜寒帯連合が、四尼我弥がなんぼのもんじゃー!」
二番格らしき太った男が言った。また猛り声が上がった。
若き騎兵団は夜中に声をひびかせると、鉄の馬にまたがった。主人の熱意に呼応するがごとく、鉄馬はいななきを上げた。それから順に騎士を乗せた馬は灰色の道を滑走していった。静かな夜が戻ってきた。
物取りや食人鬼ではなくホッとしたブロードは、ギリアンが待つ寝床に戻っていった。
夢の中でブロードは、「輪っかの揚げパン」を食べていた。
店員が次から次へと運んでくるのだ。
――たんと食べるといいよ、ブロード。無限にある。
店員はバーリントンの顔をしていた。バーリントン、きみも凍結世界に来ていたのか。魔術が使えずさぞやお困りだろう。
――そんなことより、テレビを見なよ。バーリントンの指差す方にテレビが置かれていた。テレビの中にはアラバード国のミリアとギリアンがいて、口づけを交わしていた。悲しいかい? バーリントンは尋ねた。
悲しいよ。
――やっぱりそうか。
悲しいけどさ、同時にうれしいんだよ。
――どうしてうれしいの? 憎んでいる男と最愛の女だろう?
なぜかはわからない。
――そうかな?
ブロードは鉄板を手に持っていた。その上にあるのは、クズ肉の小麦粉あえだ。じゅうじゅうと音を立て、香ばしい匂いがしていた。
――食え、ブロード。どうやら君の最後の晩餐になるようだ。
――君は今日死ぬんだよ。
ならば心して食う。
苦い苦い雑草の味がした。
「腹減った」
最悪の目覚めを迎えた。
「ギリアン? どこにいる?」
となりで眠っていた猫は姿を消していた。
どうやら狩りにでも出たか?
空腹で目眩がひどい。ブロードは再び瞼をとじた。
夢を見た。ミリアとブロードがキスする夢。だが、悪い感じはしなかった。気がつくと、ギリアンは姿を消していた。どこに行ったのか……?




