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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
第二章 凍結世界
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30/78

30.はらぺこ問題

魔術の世界から「凍結世界」へとやってきた魔術師ブロード・レッドマイア。彼は塔のなかにあるバザールへとやってきた。そこで、ある問題に直面する。「食べ物」である。

 凍結世界のいたるところでは、羊皮紙(ようひし)ではない薄紙が、使われていた。中には等身大の人間が写されているものもある。よもや、紙の中に封じられ、永久に人目にさらされる刑罰をつけている人間なのだろうか? ちょうど「額縁の巨人」と同じように。


 次の瞬間、ブロードははっと息をのんだ。

 驚いたことに、そこにいたのである。「額縁の巨人」が。

「札幌在住のグラビアアイドルの種村美咲といいまーす。サイン会開始です。よろしくお願いしまーす」

 巨人女は、言った

 彼女は、いまやブロードよりはるかに低い身長だった。口角を上げたにこやかな表情で、バザール内に設置されたステージで女が正方形の紙に何かを記していた。その目の前に平民の男たちが列をなしている。この正方形の紙はなんだろう――魔術が書かれた紙だろうか?

 近づいてみたところ、体格のいい男に静止させられた。

「整理券はお持ちですか? 1st写真集を事前予約された方限定になります」

 男の言葉には有無を言わさぬものがあった。ブロードは引き下がることにした。

 やはり、テレビは「額縁」などではなく、遠見の水晶と同じものなのだという認識をブロードは強くした。


 地下にある回廊に行くと、食欲をそそる匂いが鼻腔(びくう)へと流れこんできた。焼いた肉のにおい。焼いた魚のにおい。バニラやシナモンの風味を含んだ菓子の甘いにおい。

 どうやら、ここは食品を扱う回廊のようだ。これまでみてきたどの回廊より活気があり、人々の顔もにこやかだった。

 そこには、学院で食べられる一ヶ月分に相当するほどの食料が収められていた。肉・魚・野菜……さまざまな食材があり、それが加工されたものまであった。

 ブロードは腹が減っていたが、未知の食材だらけなのでどれも口に入れる気は起こらなかった。

 とはいえ、何かを腹に入れておきたい。


 パンを取り扱っている商人の元へときた。驚いたことに、アラバード国で作られているものと寸分違わぬものだった。さらにはチーズや牛肉を乗せてあるものがあり、料理としてはるかに洗練されていた。これなら食べても安全そうだ。

 いくつかパンを持って、会計を待つ凍結世界人たちの列に並び、自分の番になってようやく凍結世界の通貨を持っていないことに気がついた。

 だが、どうしてもパンを手に入れたい。背に腹は変えられない。ブロードは小指につけていた金のリングを差し出した。


 すると、店員は首を横に振った。

「あのね、だめですよ。現金かカードかスマホ決済でお支払いお願いします」

「これしか持ち合わせがないのだ。頼む」

 ブロードは視線を合わせ、懇願(こんがん)する。

「もう、こまったガイジンさんだなあ」

 店員は、小心者そうな顔つきだったが、ねばり強い性格でかたくなに受け取ろうとしなかった。ブロードを客と見なさないようにしたらしく、後ろに並ぶ客に声をかけた。

「そちらのお客様どうぞ」

「下手に出れば……。こっちから願い下げだ」

 ブロードは売り場を離れた。


 見返りなく食料を配っているところもあった。ほんの一欠片だが、恐らくは店の宣伝のためだろう。エビで(たい)を釣る策略だ。空腹だったが、配られているのがクズ肉を集めた料理だと知り、ギリアンの顔が脳をかすめたのでやめることにした。

 ――こうして初日は食事にありつくことができなかった。


プライドが邪魔して食事にありつけなかったブロード。彼はいったいどうなってしまうのか……?

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