29.テレビジョン
「凍結世界」を訪れた魔術師ブロード。彼が目にしたもの……それは「テレビ」
党のなかの回廊を一通り歩き回っていた。
ここは建物全体がバザールのようだった。商人があちこちに自分達のスペースを持っていて、服だったり化粧品だったりを売っていた。
化粧品と分かったのは、巨大な画板に写実的な絵画が描かれ、用途が図で示されていたからだ。粉で肌の色合いを変えたり、紅で唇の色を変えたり。香水もあった。こうしたものはアラバード国にもあった。美容への関心は世界が変わっても同じであるらしい。興味深い発見だった。
自動で動く階段で、上階の回廊へ渡った。これからも魔法的な反応はなかった。動力源は何なのか、さっぱりわからない。
フロアごとにさまざまな店があった。なかでも興味深かったのは、本の販売所だ。
美しい薄い素材の紙で織られた無数の本がそこに並んでいた。王立図書館ほどではないが、多数の本があった――どのような知識がそこに込められているのか。
他の者たちがそうしているように、ブロードも平積みされている本の一冊を手に取って読んでみた。現地語なので分からないが、強く興味が引かれた。一冊持ち帰りたい。だが、それにはこの世界の通貨を手に入れる必要がある――持ち帰る方法は後で考えることにしよう。
興味深いものは、まだあった。
さらにひとつ上の回廊の一角を占めていた商店だ。最初はマジック・アイテム・ショップかと思った。すぐにマナの反応がないことに気づいたが、それでも興味を引かれたのは、そこにあったのが故郷にはないものだったからだ。
(これは楼閣の壁にあった額縁か……その小型版⁉︎)
額縁がズラリ。
今度は小人を閉じ込めているのか? ところせましと並んだ複数の額縁に一斉に同じ小人が映ったのをみて、ブロードは驚愕した。何だこれは? 増える小人か?
額縁は、色々なものを見せてくれた。
広大な山河を見せた。
星々の世界を見せた。
火炎が、都市や人を破壊する様を見せた。動いてしゃべる絵も見せてくれた。
大勢の若い男女がパーティに興じる姿も見せた。
この額縁が遠見の水晶のように、この世界のどこかの風景を映し出している――例によってマナの反応はない。
大魔術師じゃないと見ることの叶わないものを、誰もが享受できる。誰もが世界について知識を持つことができる。なんという世界だ。魔術が使われない代わりに誰もが大魔術と同程度の恩恵を受けている。めまいがしてきた。この世界に住むものは、たった一人でアラバード国を蹂躙するほどの力を持っているのではないか?
遠見の額縁には札がつけられていたが、そこには共通する三つの文字が記されていた――テレビ。なんと発音するのだろう?
商人らしく媚びたような笑顔を浮かべた男を呼び止め、その文字を指差す。
「テレビでございますか?」
「テレビ?」
「はいテレビでございます」
「テレビ?」
「はいテレビです。値上がり前にお買い替えをおすすめしておりますが――」
「テレビ!」
「はぁ?」
このようにしてブロードは凍結世界の言語を一つ覚えた。
「テレビ」。
口にすると何だか誇らしさが湧いてくる。遠見の額縁ことテレビ!
しばらくテレビに釘付けになっていたのはいうまでもない。商人は邪魔そうにしていたが、それも気にならないくらいに夢中になっていた
テレビに夢中になるブロード。彼が次に目にするものはなにか?




