28.飢えた魔術師
故郷の仲間や家族から多大なる心配をされている魔術師ブロード。彼はいま、雑草をかじるほどに空腹をかかえていた……。思い出すのは街を巡った記憶。
「腹減った……」
ブロードの伸ばした手がつかんだのは、雑草だった。腹の虫の鳴き声はおさまらない。ブロードは恐る恐る口に運び、かみしめ、そして苦さのあまりおえっと吐き出した。
(パンが……パンが食べたい……魔術さえ使えれば……)
あれから五日間、この世界を見て回った。
結論として、凍結世界に魔術というものが存在していないことが分かった。あの素質持ちの少女以外に、魔術的な要素を持つものに接近することはなかった。
そして、いまブロードはどこか故郷を忍ばせる草地の上に倒れふし、空腹のあまり動けないでいた。
――僕は死ぬのか?
この世界で出会ったたくさんの物事を思い出す。
まず頭に浮かぶのは、あの車の倉庫だ。
灰色の街の中を歩いていると、車が何十台も停まっている場所を発見した。車置き場の入り口には見回り兵がいる小屋があり、ブロードはその監視の目をかいくぐって敷地に忍び込んだ。
ブロードの見立ての通り、マナを使用して動いているモノではないようで、どの車からもマナの行使された後は感知されなかった。
次に、車から出てくる人間の姿を観察した。貴族的な服装のものもいれば、あまり貴族的ではない服装のものもいた。車に乗っているからといって何か特別な人間というわけではなさそうだった。
その後は、魔術の痕跡を求めて、都市部の深奥まで潜りこむことにした。
学院の校舎よりも大きく、王宮殿よりも高い楼閣が立ち並ぶ様は圧巻の一言だった。
この凍結世界人の王は、どれだけありあまる富を持っているのだろう? ぜひとも謁見を申しこみたいものだ。その前に凍結世界の言語を習得するといった諸問題を解消しなくてはなるまいが。
巨塔の前には、入り口に見回り兵がいて、入場するものを制限していた。
迂闊に入ってはさっきのように身柄を拘束される危険を犯しかねない。
街中を歩いていると、大勢の入場者を受け入れている塔があった。公共的な目的の建物らしく、出入り口はさかんに人が行き交っているし、監視の目もなかった。ブロードは足を踏み入れた。
出入り口の扉はガラス製で、それがいくつも並んで、そこから多くの人が出入りしていた。驚いたことに、ドアは勝手に閉じたり開いたりしている。人がやって来たタイミングを見計らったかのように。
ドアの両脇で奴隷が開け閉めしている様子はない。と言うことは、目に見えない妖精にやらせているのだろうか?
期待に胸をふくらませてドアに近づいた。ドアは期待通りに開いたが、そこになんの魔術的・妖精的反応もなかった。
(一体、どのような原理で動いているのか)
ブロードがその場で立ち尽くしていると、
「邪魔だ、この野郎」
塔へと入ってきた見知らぬ男から何やら強い口調で言われた。男はそれだけ言うとブロードの目の前から立ち去った。無礼な態度を感じさせるものだった。意味は分からないがどうせ『お避けください、貴族様』とでも言ったのだろう。
とはいえ、そろそろ潮時だ。ドアが開く仕組みをなんとしても知りたかったのだが、ここばかりに気を取られていては日が暮れる。
ブロードは塔の奥へと進んだ。
街の中を探索するブロード。はたしてどんなものを見つけるのか……。




