26.令嬢その3
ブロードの恋するミリアという女性と対面する。ブロードの消失に対し、彼女は自分を責めていた。そして彼女の放った衝撃の一言とは。
バーリントンは、この美しい女性――ミリアと二人きり(正確には、窓辺の鳥かごかけの鳥かごにハトが一匹)で、赤いじゅうたんも美しいレッドマイア家の広い客間に座っている。ギリアンはミリアの願いで席を外した。
――どうしよう。
ミリアは何も言わず、バーリントンに輝ける紺碧色の瞳を向けるばかりだった。
その整った顔立ちに、いささか緊張をしてしまう。ブロードも美しかったが、ミリアはそれに匹敵するくらい美しい。髪が少し乱れがちなのは、いささか焦燥しているからであろうか。たとえそうでも、その美しさを少しも損なってはいなかった。
「あなたは、ブロードのご学友ね。そして、異世界の門の万人でもある」ミリアは言った。「あの子が門をくぐる瞬間も見届けた……それで合っているかしら」
「おっしゃるとおりです。僕は彼が異世界へと姿を消すところを見ました」
バーリントンは言った。
「彼が消える前、私について何か言っていたかしら」
「そういえば――」
――ミリアというのは、想像していた以上にしたたかな女性でね、僕を試しているんだよ。あの無能との結婚を表明することで僕に喝を入れているんだ。『もっと功績を作らないと、私は自暴自棄な決断をしちゃうわよ』ってね。だから、手っ取り早く功績を作ろうと僕はここに来たんだ。
バーリントンは思い出した。それから、ためらったのち、ミリアにそのことをかみくだいて伝えた。
「やっぱり……」
ミリアはその顔を手でおおった。白百合のような色合いの長い十本の指。魔術師らしくその指すべてに指輪がついていた。
「彼は私のことが好きだった。でも、私はこたえられなかった。彼の兄のギリアンのことを愛していたから……私とギリアンは結婚するの」
「それは……」
バーリントンは言葉につまった。このような恋愛話は得意とするところではない。なんだったら、恋というものも経験したことがない。
「彼を傷つけることは分かっていたの。でも、彼に嘘を突き続けるわけにもいかない。嫌われる勇気を持って、結婚を伝えたわ。そうしたらこんなことになるなんて……」
ミリアは背をまるめた。
肩まで伸びた長い髪の向こうでは、どうやら涙がしたたっているようだった。心中察しするが、慰めの言葉がかるがると口をついて出るほど、バーリントンは世慣れていない自分を痛感した。
「決めた。私も異世界に行く」
ミリアは顔を上げた。
「えっ!?」
「ブロードを連れ返しに行くのよ。それだけ。案内してちょうだい。門の場所まで」
その視線のひたむきさは、彼女が嘘をついていないことを物語っていた。つよい決意が感じられる。こちらが臆するほどに。
「しかしですね……」
「私の決心は揺るがないわ。さあ、行きましょう」
ミリアはそう言って立ち上がる。
なんて意志のつよい女性だろう。そして、なんて勇気のある女性だろう。ブロードが恋をするのも分かるような気がしてきた。
「バカなこと考えてんじゃないよお嬢ちゃん」
その時だった。
部屋のどこからか、男の声が聞こえてきた。
「私も異世界に行く」決意の固そうなミリアの前に、慌てふためくしかないバーリントン。その時、どこからともなく声が聞こえた。




