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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
第二章 凍結世界
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21.まさかの再会

〈凍結世界〉で呪文を叫び続けるブロード。だがそれは虚しい叫びに終わった。野次馬ができはじめ、そして警察がやってくる……。

「指輪よ、こたえてくれ。アラバード王国に住まう門の守り手の一族・バーリントンに届いてくれ」

 古き神々に、国祖アラバードに、ブロードは祈った。こんな弱気になったのは幼少期以来だ。ギリアンの後ろをついて歩いたあのころがよみがえってくるかのようだ。

 指輪の力は働かなかった。アンカーとしての指輪は、無味乾燥(むみかんそう)な冷たい金属でしかなくなった。

 ――帰れない、元の世界に。

 この異常な世界から。

 なんの手立てもなく。


 イループス・アェン・ルカルカス・デェ・エアリエール!

 イループス・アェン・セーレントス・デェ・シルフィーン!

 イループス・ディレン・パウロパウ・デェ・ノーメン!


 複数の呪文を叫んだ。〈透明化〉を、〈水作成〉を、〈食料作成〉を。だが、やはり無駄に終わった。どっと疲れが襲ってきてブロードは背後の壁にもたれた。

 いつのまにかブロードを、大勢の平民がかこっていた。彼らは手になにかを持っていた。平たい手のひらサイズの「金属の板」だった。それをブロードに向けて掲げ持っているのである。しかし、その視線はというとブロード本人ではなく、金属に向いていた。わけがわからないが、彼らにとってはなにか意味のある儀式であるのに違いない。


 人垣をかき分けて、何者かが近づいてきた。二人の男だった。ブロードは目を見張った。彼らはほかのなよなよした人間たちとは雰囲気が違った。

 広い肩幅にピンと張った背筋。

 二人とも青い帽子に青い衣服を身に付けていた。

 この手の人間たちは、元の世界にも心当たりがある。街の見回り兵だ。彼らは犯罪者を逃さぬよう己を鍛えあげ、日々の職務でつちかった抜かりなさで怪しい人間を見つけあげる。それからほぼ例外なく(ろう)にぶち込む――息絶えるまで。

「ちょっとお話いいですか。北海道警(ほっかいどうけい)のものです」

 当然何を言っているか分からなかったが、声色はていねいだった。

「お兄さん、外国の人? 僕の言ってること分かります? さっき何か叫んでたけど、大丈夫ですか? 困っているなら力になりますよ」


 見回り兵は二人組で、片方は若く、もう片方は白髪頭だった。若い方が話しかけてきて、白髪の方は何か紙に何かを記している。その紙は羊皮紙(ようひし)に比べて恐ろしく薄い素材でできていて興味をそそるものだったが、今はそのことに関わっている余裕はない。

「日本語分かる? ねえ、日本語」

 何を言っても梨のつぶてとわかり、若い男は白髪頭のほうに視線を向けた。

「旅行者かな。なまら立派なコートっすけど、どこかの金持ちさんですかね?」

「どうかな。詐欺師だって身なりはいいべ。ま、とりあえず署まで同行してもらおうや。暴れるようなら公務執行妨害で引っ張っていこう」


 若いのはブロードを見すえる。目つきが変わった。ブロードは思った。獲物を狙う狩人(かりゅうど)の目だ。僕を牢獄に閉じ込める気だ。

「ここで立っていてもしょうがないからさ、ちょっと署までご同行願えませんかね。これは任意でのお願いなんですけどぉ」

 声はあいかわらず丁寧だ。だが声とは裏腹にその視線は一貫して厳しいものがあった。言葉はわからなくても、その強い意思だけは伝わってくるのだった。


 ――逃げなくては。

 助けを求めてあたりに視線を走らせる。気がつくと人垣はさらに厚くなっていた。いつの間にか大きな騒ぎになっていたのだ。当然のことながら、大勢の人間がいる世界では、大勢による人垣ができるのだ。

 魔術が、魔術こそが使えれば。空を飛び、姿を消し、相手の意識を失わせて、逃げることができるのに! 今の自分では人垣を押し退けて逃げ回ることも不可能だ。魔術に頼って肉体の鍛錬(たんれん)をおこたってきたからだ!

「そこに突っ立ってないでさあ、一緒に行きましょうよ。別に取って食おうってわけじゃないんだからさ」

 白髪頭の方が初めて目を合わせてきた。若いのと同様に口調とは裏腹に、まなざしは厳しい。男の手が伸びてくる。僕の腕を捕まえようと伸びてくる。

「さわるな、下民ごときが!」


 その時だ。

 あり得ないことが起きた。

 危機の果てに目にした幻かとおもった。


 ブロードのアーモンド形の目は、人垣のなかに、あり得ない人物の姿をとらえた。

 まぶたが限界まで広がった。

 頭のなかが真っ白になった。

 その瞬間、見回り兵も群衆も消えてなくなった。

 まさかここにいるはずのない人。

 アラバード国・王立研究所の研究者であるブロードの最愛の女性――ミリアがそこにいたのだ。

「ミリア……!」

 ブロードは叫んだ。見回り兵たちは驚き、ブロードの視線の先に目を向けた。

「私⁉︎」

 群衆の中から女性がひとり、輪の中心へ歩みをすすめた。

「君は?」

「あの、私、ミリアです」

 猫を思わせる美しい容貌。肩まで伸ばした髪。ブラウスに丈の短いプリーツスカート――身につけた衣類こそ異世界風だが、彼女はまぎれもなくミリアその人だった。

「ミリアぁー!」


警察に連行される危機を前に、ミリアの姿を発見するブロード。なぜ? どうして? ここにミリアが?

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