15.最高の幸せ
決意を込めて、ギリアンとミリアはある発表を行う。会席者の視線がふたりに集まる。
「皆さんにお伝えしたいことがあります。僕ギリアンと、ここにいるミリアは結婚します」
ミリアも立ち上がり、ギリアンの横に並んでその手を取る。ぎゅっと強くギリアンは握りかえした。
「なんと誠か!」
長い沈黙の後、レイダリアンは立ち上がった。
「ミリア、あなたは諸侯からお声が掛かっていたはずよ。まさかうちの長男坊とだなんて」
レリスは唖然としていた。
「本当です。僕らは同じ王都にいながら愛を育んでいたのです。求婚しました、この美しき女性に」
ギリアンは緊張した面持ちで言った。。
「私は求婚を受け入れました。ギリアンのことを強く深く愛しております」
ミリアはほほえんで言った。
「このようなよろこばしいことが他にあろうか」
聞こえるか聞こえないかの声でレイダリアンはいい、酔いも手伝ったのかその両目には光るものがあった。
「大切な二人が結婚するだと? なんということだ。私にはもったいないぐらいの幸福だ」
「すると、父上お認めいただけるのですね?」
ギリアンがたずねた。
「認める。認めるとも。ああ、もちろんだ。夫婦となり、私たちのように幸せな、いや、私たち以上に幸せな家庭を築くといい」
レイダリアンは目元をぬぐった。
「もうレイダリアン、いい歳をした男が何です。みっともない」
そういってレリスはハンカチで目元をぬぐった。
四人は席を立ち、お互いを抱きしめ合った。
「やったな、よくやった。この上なくすばらしい女性をモノにしたぞ」
レイダリアンの口からギリアンの耳へ。
「これ以上にうれしいことはないわ。あなたと家族になれるなんて」
レリスの口からミリアの耳へ。
頭のてっぺんから足の先まで温もりで満たされるような気分が訪れた。その瞬間、ミリアの脳裏に記憶の断片が浮かび上がってきた。
それは陽の当たる庭園の中。いばらが真っ赤な花を咲かせる中で、ガーデンチェアに座り笑顔を向ける麗しい女性。風に仰がれて豊かな亜麻色の髪がそよいでいた。彼女はミリアに笑いかけた。すてきなほほえみだった。
それは、忘れていたミリアの母だ。彼女は鏡に映る自分の姿によく似ている。母は何ごとかを話しかけてきた――おめでとう、ミリア――そう言っている気がした。
ありがとう、ギリアン、お母さんに会わせてくれて。
「旦那様!」
ミリアを夢から引き戻したのは息切れした小人妖精の声だった。
「どうしたというのだ。そんなに慌てふためいた様子で」
「ブロード様が……!」
「ブロードならそこに……」
レイダリアンは部屋を一瞥した。ブロードの椅子はからっぽで、じゅうたんの上に横倒しになっていた。
「ブロードがどうしたというのだ!」
レイダリアンは妖精の小さな肩を両手で揺さぶった。
「屋敷を飛び出して行ったのです! ブロード様のしもべであらせられる巨狼の背に乗って!」
「何だと⁉︎」
じゅうたんのの上に、散り散りになったワイングラスがあった。中に入っていた液体は、赤い水溜まりをそこに作っていた。
ポッポー。
鳥かごの中の鳩の鳴き声だけが沈黙を埋めていた。
姿を消してしまったブロード。彼は一体どこへ消えたのか……?




