13.ファミリー・ディナー
ブロードとミリアの参加する楽しいファミリー・ディナーがはじまった。しかし、兄ギリアンとブロードの間にはどこかピリピリした雰囲気があって……。
ワイングラスを掲げ、レッドマイア家の長・レイダリアンは「われらの再会に」と声を張り上げた。その妻レリスと長男のギリアン、次男のブロード、客人のミリアがつづいた。
「ミリア、君は本当に貴婦人に成長したな。往時の母上のことがしのばれる」
「ありがとうございます。母が聞いたらよろびますわ」
「母上はそれはそれは美しい人だった。外見だけではない。内面もだ。同級の魔術師の卵たちはみな彼女に恋をしていたものだ。無論この私とて例外ではない――おっとすまない」
レイダリアンは妻レリスの手に手を合わせる。
「いいのよ。それも当然だわ。あの方は本物の花でしたわ。品があり、言葉づかいも丁寧で話していていつも楽しかった」
レリスは、ブロードに生きうつしの美しい女性だ。年を取ってなおその髪の美しさは色あせない。
「天国のご両親もさぞや鼻が高いだろう。今ではその一人娘が、自分たちと同じ王立魔術研究所で働いているのだからね」
レイダリアンがグラスに伸ばした手を、レリスは両手で包みこむ。どちらかというと力強く。
「飲み過ぎですわよ。医術士からはひかえるように言われているでしょう。回復魔術といえども内臓の病には作用しづらいんですからね」
「まあ、せっかくの再会の席だ。今晩くらいよいではないか」
苦笑しつつレイダリアンは自分の口髭をなでつける。
ミリアは笑みがこぼれるのを感じる。この親代わりの夫婦のことがミリアは大好きだった。自分の父母も生きていればこのようなやりとりをしたのだろうか。
おぼろげながらも記憶にあるその姿は、悲しいことに年を重ねるとともにうすれていくのだ。
「文献によると、ある種の植物の種子は、胃腸の働きに効くと言います。今度調べて持ってまいります、父さん」
ギリアンは言った。
「ふむ。魔術の力の及ばぬところは、口に入れるものに頼るしかないか。その博識ぶり心強いぞ、わが息子よ」
「そんなものは眉唾ですよ。植物の種子? お笑い種もいいところだ」
飲み干したグラスの底が、テーブルの上に当たって音を立てた。眉をひそめたブロードは、兄に底意地の悪い笑顔をむけた。
「やはり魔術にかなうものはありません。ミリア、研究所にはその手の薬を研究している者がいたはずだ。彼から胃腸に作用する薬をひとつ融通してもらってはどうかな」
ブロードの脇に給仕の小人妖精がワインボトルを手にやってきてすぐさまグラスを満たす。妖精が引っ込み、ブロードはグラスに口を付ける。
「そうしてあげたいのはやまやまなのですが、そのような魔術薬は、まだ研究段階。危険がともないますので、お渡しするわけにはいきませんわ」
ミリアは眉根をよせた。
「さすが魔術のこととなると耳ざといなブロードよ。わが一族の誇りよ。このレイダリアン、実験動物のウサギとなる覚悟はできてはいるが、ここはミリア女史の忠告にしたがうとしようか」
快活に笑った。
「まったく、わが弟ながら手厳しい。もう少しお手柔らかに頼みたいね」
疲れたように笑うギリアン。
「ちょっと!」
ひそめた声で、ミリアはブロードに呼びかけた。
「楽しい席にするっていう約束でしょ。ギリアンに謝りなさい」
「ついね。悪かったよ」
ブロードは視線を合わせずに言った。
ギリアンと再会してからというもの、ブロードの機嫌は目に見えて悪くなった。
馬車がこちらについたとき、ギリアンはミリアとブロードを迎えた。その際、ブロードとギリアンの間でひと悶着があった。ギリアンがランディに金貨をあたえたのを、ブロードが気に召さなかったのだ。
『ランディ、孫が産まれたそうじゃないか。馬丁と猟師の収入だけでは、なかなか大変だろう。これでいい服でも買ってやっておくれ』
ギリアンが言った。
『よ、よろしいので!?」
ミリアとしてはこれはいいことだと思い、ギリアンに賛辞を送りたい気持ちだった。しかし、間髪入れずブロードがギリアンに言った。
『ギリアン、それはダメだろう。平民を甘やかしても平民のためにならない。自分の面倒は自分で見させるんだ』
『甘やかすのとは違う。彼は友達だ。こうして贈り物をして何が悪い』
『貴族と平民が友達? 悪ふざけはやめて下さい』
『ふざけてなどいない。彼との友情を僕は本物だと考えている』
『坊っちゃま方、お金はお返しします。どうか争いはやめてくださいまし』
『だめだ、取っておくんだ』
『だめだ、返すんだ』
『どうしたらよいので!?』
あのやりとりを思い出すと頭を抱えたくなるミリアだった。この食卓もなごやかなムードで終えられるといいのだけれど……。
やっぱり対立し合うブロードとギリアンの兄弟。これ以上騒ぎがおおきくならないか心配するミリアだったが……。




