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#9(最終話)

・機械によって加工された音声で話している場面がございます。


「」→肉声

『』→機械によって加工された音声

()れてきた。俺とそいつだけだ』

『遅くなってすまないな。あたしも相手にしてやるよ』


 機械によって加工された音声が流れる。

 先ほどの男がもう一人の漆黒のローブを着た人物に指を指した。

 二人目の声は女のものであり、(なごみ)の口から発されたもの。


「……ほう……黒幕は女らしいな……比率としてはバランスが良いのでは?」

「なら、同性同士でいきましょう。また(かつ)がれたら(いや)ですし」


 冷静な二人に対し、男……鳴上(なるかみ) は先ほどの行動が引き金となり、ビクッと動いた。


『ビビってるんじゃねぇ!!』

『ビビってねぇし!』

「おい! 漫才(コント)をするなら他のところでやれ!」

『ちゃっちゃと()るぞ!』

「早急に始末しましょう」


 来栖と由佳(ゆいか)は黒幕側である和と鳴上に勝負に挑む――



 †



「あらあら。黒幕さんは素人(しろうと)かしら?」


 由佳の左手にはきらっと光る医療用メスが女に向けられていた。

 その女は怯えることなく、メスをじっと見ている。


『へぇー……あんたも玄人(くろうと)なんだな……あいつ、なんにも言ってなかったな』

「部下との情報共有が下手ね。それで黒幕(トップ)を名乗れるのは良いご身分だこと!」


 彼女の攻撃は華麗に避けられてしまう。


「……反射神経がすざましいわ! なかなか刺さらない!」

『あたし、運動神経は良いほうだからな……』


 何度も仕掛けても踊るように避けている女。

 由佳はその女には刺殺(しさつ)には向かないと判断した。

 ならば、相手を効率的に(あや)めるにはどうしたら良いのかを未使用の医療用メスを懐にしまいながら考える。


「ふぅん……ならば、これならどうかしら?」


 彼女がジャケットから出したものはコンパクトに折り畳まれた鞭だった。



 †



『なんだよ。連れの女じゃねぇのかよ』

黒薔薇(くろバラ)のお嬢様の刃物とあんたの銃でもアリだが、さっきみたいにあんなことされたら(たと)え俺が女だとしても少し気が引ける。それに彼女とあんたとの体格差が生じるし」


 来栖は拳銃ポーチから銃を取り出し、銃弾の予備を詰め、安全装置を外す――

 男はすでに準備は整っている。


 彼らは互いの心臓部を目掛けて銃口が向けられた。


 パンッ!!

 二人の拳銃からほぼ同時に銃声があがり、(つい)の方向に銃弾を避ける。


「『避けられたな……』」


 同時に発した後、仮面の男は舌打ちをし、正面に立っている来栖は狂気に満ちた表情を浮かべていた。



 †



「逃がさないわよ!」


 由佳の鞭が左右にしなる。

 刃物が駄目ならば異なるもので攻撃を仕掛ける。

 仮面の女は『いてっ! 何をするんだ!?』と問いかける。


「まずは(これ)で弱らせてから首を絞めるなり、メスで刺すなりさせていただこうかと思っておりますわ!」

『チッ……女なのに……力が……強すぎる……!』


 彼女は高笑いしながら女に鞭を打ち続けた。

 目深に被っていたローブのフードが少しずつ脱げていく。

 弱ってきたタイミングを見計らい、鞭をしまい――


「口は相変わらずね。仮面の中の顔はおそらく悪い意味(・・・・)で良い顔していることでしょう?」

『……ぐっ……』


 女の首を強く絞める由佳は眼を見開きながらこう言った。


貴女(あなた)の正体をここで明かすかそのまま死ぬか決めなさい!」

『ああ、分かったよ。顔を出せば良いんだろ?』


 その女はローブのフードを脱ぎ、仮面を外し、音声を加工する機械の電源を切る。


「怖かったでしょ? ごめんね」

「えっ……!? な、和さん……?」


 彼女にとっては見覚えのある顔が現れた。


 驚くのも当然だ。

 黒幕の正体は和であったのだから――



 †



 こちらは激しい銃撃戦が繰り広げられている。

 あちこちに転がる空薬莢(かららっきょう)に男のローブに穴が開き、フードが脱げていく。


 来栖はその仮面の男の髪型に見覚えがあった。

 男は『弟くん?』と問いかける。


「はい?」

『なかなか面白(おもしろ)かったぞ!』

何故(なぜ)……!?」

「はぁ……暑い。おそらく、なごみんたちも同じことをしてると思うぞー」


 仮面を外し、音声を加工する機械の電源を切った鳴上の姿だった。



 †



「おーい! なーごみーん!」

「……あのー……そのようなことして恥ずかしくないのですか?」

「ぜーんぜん」

「隣にいる私はとても恥ずかしいのですが……」


 鳴上が両手をあげて手を振っている横で呆れている来栖がいた。


「あっ! 海斗たちだ」

「鳴上さんでしたのね……私を(かつ)いだ張本人(ちょうほんにん)は」

「ギクッ!」


 和は無邪気に手を振り返し、由佳の肩を借りて歩いており、来栖はそんな和を見て「ね、姉さん!?」と驚いている。


「どうした!?」

(なお)、ごめんなさい! お姉様(和さん)負傷(ふしょう)させたかもしれないわ!」

「え!?」

「私が鞭を振り回しすぎたせいで……」

「由佳……俺たちは姉さんたちが黒幕だとは知らなかったのだから仕方がないだろう」

「ええ……そうだけれども……」


 来栖と由佳は二人が裏で操作していたことは本人たちから言われるまで知らなかった。

 そのこともあり、彼女は自分がしたことに後悔しているようだった。


「そうそう。全ては私が仕組んだことだし。直も私が黒幕(・・)だというのは知ってたの?」

「さっき、鳴上さんから俺の銃弾の予備や武器を勝手に持ち出した件も含めていろいろと(・・・・・)話を聞いた」

「弟くん。銃弾は後で返す。神永はなごみん相手に派手に殺ってしまったな……まぁ俺の場合は巻き込まれた(・・・・・・)んだけどな(・・・・・)


 鳴上に関してはノータッチのはずだったのだが、和の脅迫によって巻き込まれた。

 よって、来栖たちも同様である。


「普通の病院だとヤベェからBFF(組織)直営の病院で見てもらうか?」

「えー……マフィアの人たちがお世話になってるところで()てもらうの?」

「大丈夫ですわ、お姉様。私もお世話になっていますので」

「由佳さんも診てもらっているから大丈夫だね」

「負傷者もいることだし、俺の車に乗れ。弟くんたちは神永の部屋でシャワーを浴びてこい。なごみんは俺が病院に連れていくから」


 こうして四人の一夜は過ぎていくのであった。



 ―― Fin ――


2026/07/07 本投稿

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