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#6

 ここは来栖くるす (なお)の実の姉である来栖(くるす) (なごみ)が昼はランチ、夜はバーを経営しているこじんまりした店。


 現在は客の姿は見当たらない。


「面白くなってきたね……」


 彼女はノート型のパーソナルコンピューターの画面に夢中になっていた。

 店内のベルが鳴り、「なごみん!」と男の声がかかったが、和は気が付かない。


「なごみーん! ちょっと、聞いてる? おーい!」

「あれ? 海斗(かいと)? いつからいたの?」

「えー……さっきからいたけど、気付いてくれなかった……?」

「ごめん」


 鳴上はようやく彼女に気が付いてくれたと思ったが、リアクションが遅く、ショックを受けた。


「ところで、この荷物を預かってくれない?」

「私のお店はコインロッカーとか荷物預け場じゃないんだけど……海斗の鞄?」

「いや、神永の鞄だ」

由佳(ゆいか)さんの? なんで?」

「さっきまで、俺と神永で食事会を兼ねた会合に行った帰りで。あいつ、その帰りで依頼が入ったらしい。鞄は明後日(あさって)まで預かってほしいと言われたが、俺が預かるのも気が引けるというかなんとやらで……」

「へぇー。だから海斗はピアスを外してたんだ」

「その通り。透明ピアスが足りなかったけどな」

「へぇー……違和感、エグい」

「神永も服装は模範生みたいになってたけど、化粧は濃いが」

「由佳さんはバチッとした方が似合うし。でも、すっぴんとか見てみたいかも……」

「弟くんなら写真の一枚くらいは持っているんじゃないのか?」

「あー……持っていそう。由佳さんの鞄は私が預かるから」

「おっ、サンキュー!」


 和は彼と他愛のない会話を楽しむ中、鳴上が言っていた「会合の後に依頼が入った」という台詞(セリフ)に引っかかる。

 彼女は何も知らないふりをした。


「なごみん。パソコンで何してたの?」

「えっ!?」

「なんかさ、気になっちゃってさ」


 彼はカウンター席に腰かけ、和に鋭い視線を送る。

 彼女は「仕方がないなぁ」と口元を緩めた。


(あらかじ)め設置しておいた監視カメラで面白い映像を見てたの」

「最初から!?」

「うん。由佳さんが車から降りてくるところからね」

「依頼っていうのはなごみんの仕業か!?」

「そう。二人に依頼を出したのも()。デスゲームに例えるとGM(ゲームマスター)みたいなもの。由佳さんは流石(さすが)ね。すぐに察して()っちゃうんだもん」


 鳴上にやさぐれたような声と表情を浮かべる。

 和の裏の顔は情報屋でもありハッカー。


 今回は実の弟である直と由佳の二人にバティを強制的に組ませ、彼女の依頼をこなしている。

 二人が(あや)めた者たちは和が事前に裏でサイトとかで手配した者たちだったのだ。


 所謂(いわゆる)、彼女は黒幕(・・)である。


「あいつは中高生の頃から暗殺に手を染めた実力者だからな。じゃあ、俺は帰るわ」


 和の変化に彼は付いていけなくなり、席を立とうとする。


「海斗、行くの?」

「ああ。用が済んだから」

「ちょっと手伝ってくれない?」

「なんで?」

「あの二人に対等に闘ったりできるのは海斗しかいないんだよね」


 彼女は鳴上の左腕を(つか)み、上目遣いで話しかけた。

 しかし、彼は和の手を振り払い、舌打ちをする。


()れる奴も手配すれば良かったじゃん。今回は偶然、用があったから来たようなもんだからさ。じゃあな」


 帰ろうとドアノブを掴もうとする鳴上に彼女は「待ちな!」と言い放ち、振り返った彼の胸ぐらを掴みかかってきた。


「離せ!」

「やってくれるよね?」


 まるで威嚇(いかく)する黒猫のように脅迫してくる和に鳴上はすぐに答えなかった。

2026/07/05 本投稿

2026/07/07 誤字修正

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