表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

#2

 由緒(ゆいしょ)正しき一族が住んでいた。

 その一族の名は富永(とみなが)家。


 社長及び創設者である富永(とみなが) 雄一(ゆういち)は日用品のプライベートブランド「トーミー」を世に知らしめ、業績はみるみる伸び、数年後には有名ブランドになるのではないかと言われている企業だ。

 これまでにヒットしたのは割れにくい食器やどの素材の容器にフィットするシリコンラップなど。


 「トーミー」本社から離れた屋敷には執事やメイド、調理人(シェフ)などとたくさんの使用人が住み込みで働いている。


 その中に一人、若そうな執事がいた。


 きっちり着こなした燕尾服(えんびふく)

 黒縁眼鏡からの視線は少し鋭いが、清潔感のある黒髪の短髪でまろやかさを出し、かつミステリアスな雰囲気を持つ高身長の男。


 彼の名は来栖くるす (なお)


 来栖が(つか)えている社長令嬢、富永(とみなが) 有紗(ありさ)は大学生。

 本日は朝から講義を受けに行っているため、ゆっくりと時が流れている。

 彼は彼女が出かけている時間を活用して屋敷内の環境整備を行っていた。


「来栖さん。お先に休憩を取ってください」

杉山(すぎやま)さん。よろしいのですか?」


 有紗の母親である富永(とみなが) まどかの専属執事の杉山がバケツを持って声をかけてきた。

 現在、彼女は談話室にてフラワーアレンジメント教室を行っており、生徒たちは色とりどりの季節の花を生けている様子が視界に入ってくる。


「ええ。こちらはまだフラワーアレンジメント教室が終わっていませんし、有紗お嬢様はまだお帰りではないので。彼女が帰ってくるとなかなか休憩が取れなくなってしまいますからね」

「ありがとうございます。お言葉に……」


 白の不織布マスクを外し、会話をしようとした来栖だったが、遮るように彼は「来栖さん。ちょっと……」と少し(かが)むよう促した。

 杉山にとって高身長の彼には(あらが)えない。


「本日の有紗お嬢様の晩餐(ディナー)はなんですか?」

「お嬢様は和食をご所望ですので、料理人(シェフ)に頼んでおかなければ……」

有紗ありさお嬢様が和食だなんて珍しいですね」

「ええ、本当に(・・・)。では、お言葉に甘えさせて休憩に入らさせていただきます」

「休憩から戻られたら奥様の方は落ち着かれると思いますので、昼食(ランチ)をお出しください」

「承知致しました」


 来栖は彼と別れ、キッチンへ向かう。

 冷蔵庫に入っている食材を使ってカルボナーラとサラダやコンソメスープを作り、使用した調理器具を片付けてから自室に戻った。


 喫煙所も存在するが、彼は煙草(たばこ)を吸わないため、部屋で昼食を()りつつ、ゆっくり休憩する。


 端からみると、今では懐かしきコロナ禍での光景。


 使用した食器は洗浄して返却する決まりになっていることもあり、忘れないうちに綺麗(きれい)に洗い、布巾(ふきん)()いておく。


 食事の後始末を終え、換気をするべく窓を開けた。

 あたたかい日差しが入り、そよそよとカーテンが揺れ、髪が風に乗ってふわっと(なび)いている。



 †



 必要最低限のものしか置かれていないように見える来栖の部屋。


 しかし、クローゼットの中には外部の人間には見せられないものが存在する。

 その中には拳銃や刃物といった武器がたくさん収納されている。


 彼には表と裏の二つの顔を持っていた。

 冷静で有能な執事と人間(ヒト)はもちろん動物を(あや)める冷酷非道な暗殺者――


 そのため、この屋敷の同業者は来栖のプライベートを知る者はいない。


 彼の正体を知っているのは富永家の三人だけ――



 †



 椅子に深く腰かけ、脚を組む。

 スマートフォンを手に取り、メールやメッセージアプリのチェックを行うが、何も通知が受信されていない。


 もちろん、依頼も――


「現時点では何もないか……さて、そろそろ行かなければ……」


 スマートフォンの画面に表示された時刻を確認し、充電器の(となり)に置いた。

 窓を閉め、綺麗に洗浄された食器と共に退室したと同時にピコンとスマートフォンが鳴る。


 来栖はそのことに(まった)く気が付かなかった。

2026/07/01 本投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ