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婚約者を義母妹に奪われた地味令嬢ですが、雷の精霊様の溺愛が止まりません〜不屈の心で反撃いたします!〜  作者: ぶるどっく


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第十六話



「おやおや……僕の可愛いミリアンナの婚約者なんて胸糞な立場だった上に、剣を向けた虫けらが鬱陶しい」


 ミリアンナの身体を優しく抱き寄せ、魔力で耳を覆う。


 ……これで、どんなに汚い言葉が響いても……ミリアンナには届かない。


「何をしているっ!

 早く!あの愚か者どもを殺せっっ!!」


 マントで下半身を隠したフレドリックの苛立った怒声に、戸惑いながらも騎士たちは従う。


「…………」


「っ……紫苑くん……」


 屈強な騎士たちに囲まれ、怯えたミリアンナが紫苑の胸元をギュッと握る。


「ミリアンナ、大丈夫ですよ」


「……ぅん」


「怖いなら、僕の胸元で顔を伏せていてくださいね」


 すぐに終わらせます、と胡散臭い微笑みの紫苑に、ミリアンナはいつもと変わらないと安堵する。


「いい子ですね」


 安心したように己の胸元に縋り付いたミリアンナの頭を撫で、紫苑は満足そうに頷く。


「ふむ……ジオラルド以外の人間など、百五十年前に掃除しておくべきでしたかねぇ?」


 紫苑を囲んだ騎士たちが剣を振り上げ、迫って来る。


 数多の白刃が紫苑に向かって振り下ろされた、突き立てられようとした、瞬間……


「塵芥が、身の程を知りなさい」


 極寒の大地も生温い。

 冷え切った殺意の瞳、人外の酷薄な微笑み。


「ぐあぁ゛ぁぁぁっっ」

「ひっぎぃぃぃっっ」


 目を焼く白い稲妻、何人もの騎士たちの悲鳴が重なり吹き飛ばされる。


「ひっ……な、何者じゃ?!

 このような見事な魔法……精霊様と契約した……」


「あー……面倒です。

 影も形も残さずに…………消し去ってしまいたい」


 くくく……と喉の奥で紫苑は低く嗤う。


「何なんだ……何なんだよっ、いったい……!」


 頭を掻き毟り、人知を越えた存在に狼狽するフレドリック。

 貴族達は悲鳴を上げて逃げ惑い、吹き飛ばされた騎士達は焦げ臭い匂いを上げながら微かな呻き声をあげる。


「っ……まさ、か……この雷の力は……!

 まさか、貴方様は……伝説の雷の精霊様……?!」


 愕然とした王の言葉に、逃げ惑っていた貴族達が息を呑む。

 この地に王国が建国された当時から続く古い伝説。


「かつて……この地は雷の精霊様が治める雷鳴轟く大地だった……!

 その雷の精霊様より我ら王家は許しを得て、この地を治める権利を譲って頂いたのだ。

 その……雷の精霊様が特にお気に召したのが、我ら王家とフランソワ侯爵家の……」


「耄碌しましたか、父上?!

 こんな奴が精霊な訳がな……」


「黙れっっ!愚か者っっ!!」


「ひっ……」


 怒りに任せた王の一喝に、フレドリックは身を竦ませた。


「大変申し訳御座いませんでした!

 精霊様とは露知らず、ご無礼の数々を平にご容赦くださ……ひぎゃあっ?!」


 地面に頭を擦り付ける勢いで土下座する王の直ぐ側に雷が轟音と共に落ちる。


「人間とは嫌ですねぇ?

 たかが、百五十年程度しか経っていないというのに、勝手に真実をねじ曲げるのですから」


 ミリアンナには決して見せない、紫苑の人間を蔑む傲慢な表情。


 憎悪に満ちた瞳に、人間達に戦慄が走る。


「誰がお前らのような塵屑を気に入るものか。

 僕が気に入ったのは、ジオラルド・フランソワの血筋のみ。」


「なっ……」


 語り継がれることの無かった真実に、王は震えてしまう。

 それが真実ならば……王家の血筋の正統性が消え去ってしまうのだから……!

 

「それならば……!」


 その時、王と紫苑の会話に口を挟む女の声がした。


「それならば!

 私の可愛いリリアーナも!

 リリアーナもフランソワの正統なる娘で、あっあア゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁぁっっ……」


「煩いですよ、下等種が。

 お前の自慢のお人形に価値など有りませんよ」


 視線すら向けることなく拒絶したシオンの言葉が終わらぬうちに全身を痙攣させ、白目を剥いて失神したナルシッサ。

 大理石の床の上に広がった失禁のあとに、周囲の貴族達は小さな悲鳴を上げた。


「ひっ……」


 己も母親と同じように電撃を浴びるのかと怯えるリリアーナに目もくれず、紫苑の視線は玉座の方だけを見ている。


「ぅ、そだ……うそだウソだ嘘だ嘘だぁぁっっ!!」


「フレドリックっ?!」


 紫苑の人外が放つ威圧感に耐えられなかったのか、狂ったように叫んだフレドリックが王を押しのけて前へ出た。


「私は王太子だぞっ!

 この国のモノは全て私の物だっっ!!」


 頭を掻き毟り、髪を抜きちぎる勢いで荒れ狂うフレドリックに、紫苑は冷え切った視線を送る。


「そうだ……!

 お前、雷の精霊!」


 父親である王が止めようとするが、フレドリックは引き攣った笑みを浮かべて紫苑へと叫んだ。


「お前は、私の婚約者だった女が欲しいんだろっ!

 その女も、このリリアーナもくれてやるっっ!!」


「いだっ、いたいっ……ふれどりっく……さまっ……?!」


 己の側にいたリリアーナの髪を掴み、その小さな体をフレドリックは無理矢理に紫苑の前に蹴り出した。


「そん、な……」


 別に、リリアーナにとっては好きではなかったフレドリック。

 だが、あんなにもリリアーナを可愛いと気に入っている様子だったのに、掌を返すように蹴ったフレドリックの行為に絶望する。

 

「他に欲しい女がいればやろう!

 それにっ!金や宝石もっ!

 渡せるものは全てくれてやる!

 だから……!」


 傷付いたリリアーナに目もくれず、欲に歪んだ狂った笑みを浮かべたフレドリックは叫び続ける。


「だから……!

 この私がお前と精霊契約をしてやろう!」


 最高の考えだと信じて疑わないフレドリックは、お前を受け入れてやるとばかりに両手を広げるのだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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