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婚約者を義母妹に奪われた地味令嬢ですが、雷の精霊様の溺愛が止まりません〜不屈の心で反撃いたします!〜  作者: ぶるどっく


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第十五話



 王族の入場に貴族たちに沈黙が広がる。


「……王太子の成人を祝う舞踏会というのに。

 そち達は、いったい何をしているのだ?」


 用意された玉座に座った年嵩の王が、面倒そうに口を開いた。


「……リリアーナ?」


「恐れながら、フレドリックさま!

 お母様と私は悪くありません!

 ミリアンナ、姉が……折角のお祝いの席なのに、私たちを虐めるんです……!」


 うるうると大きな瞳を涙で潤ませたリリアーナが、フレドリックに向かって叫ぶ。


「リリアーナ……」


「フレドリックさまぁ……」


 より小さく、より幼く見えるように。

 フレドリックに全身で媚びるリリアーナに、フレドリックの目尻が下がり、鼻の下が伸びる。


「ミリアンナ、君がこんなにも愚かな女だと思わなかったよ」


 怒りの籠もった声音と侮蔑の視線をミリアンナへと向けるフレドリック。


「恐れながら……私は、フランソワ侯爵家の血を継ぐ者として可笑しいことを正そうとしているだけですわ!」


 結末はきっと変わらないとミリアンナはもう知っている。

 だから……やっていないことを認めたりなんて、絶対にするもんか!


「……そうか。

 ならばもういい。

 お前が己の悪事を認め、反省するならば情状酌量の余地もあると思ったが……」


 スッと目を細めたフレドリックは、高らかに宣言した。


「ミリアンナ・フランソワ!

 王太子である私の婚約者でありながら!

 異母妹を虐め、可憐な乙女の心を踏みにじるような薄汚い貴様との婚約を破棄するっ!」


 ミリアンナを見下して、フレドリックは嗤う。


「……殿下、私はそのような真似は断じてしておりません。

 そして、私と殿下の婚約は恐れながら陛下のご意思と伺って……」


「黙れっ!

 貴様如きが恐れ多くも陛下のご意思を語るなっ!」


 その口上すら途中で遮られてしまったミリアンナは、手を握りしめる。


「ミリアンナよ。

 我が友であり、忠臣であった貴殿の父の血を継ぐお前の咎。

 余は、誠に残念極まりない。」


 フレドリックが嗤う。

 すべて己の思い通りになると信じて疑わない笑顔。


「……っ……」


 ミリアンナは、こうなることなど分かっていて此処に来たのだ。

 様子を伺う貴族たちも、飛び火を恐れて誰も何も言わない。


「(…………私の味方なんて……誰もいないもの)」


 唇を噛みしめる。


 泣いて溜まるか。


 こんな奴らの前で、傷ついた顔なんて見せたりしない……!


「どうか、お聞きくださいっ!

 私は無実でっ…………………え゛っ……?」


 言いたいことは全部言ってやると、腹に力を込めてフレドリックを見据える、が……


「……え゛……?」


 言葉が途切れ、頬が引き攣った。


「…………なんだ?」


 周囲の貴族たちも顔を背けて、身体を震わせる。


 フレドリックの横で泣き真似をしていたリリアーナも、頬を引き攣らせる。


「フレドリックよ……お、お前は何を……」


「陛下……?」


「何故にっズボンが消えておるのだっっ?!」


「はっ?!

 ひっ?!きゃぁぁぁぁぁっっ!!」


 キョトンとした間抜け面からの、フレドリックの絹を裂くような乙女の如き悲鳴。


 さっきまで婚約破棄だと格好つけていた男とは思えない醜態だった。


「ぶふっ……!」


 そんな予想外の出来事に、ミリアンナは口元を押さえて笑ってしまう。


「みみみみっ?!

 私をみるなっっ!!」


 桃色の薔薇柄。


 必死でマントで隠そうとしている姿が、滑稽過ぎて腹が捩れる。


 喉の奥で低く笑う貴族たちの嗤い声。


「キッサマァァァ!!」


 裏返った叫び声。


 怒りを込めているのだろうが、それすらも可笑しくてたまらない。


「貴様の仕業かぁぁぁぁっっ!!」


 剣を振りかざして、桃色薔薇柄パンツのフレドリックが迫る。


「…………」


 しっかり嗤った。


 爆笑した。


「(ごめんね……紫苑くん。)」


 だから、もう……いいや。


「……たぶん……紫苑くんは、私の初恋だったよ」


 零れ落ちた呟き。


「あ゛ぁぁぁっっ」


 迫る白刃。

 ミリアンナは、死を受け入れて微笑んだのだった。


『いやいやいや。

 ダメですよ、ミリアンナ。』


 ミリアンナの眼前で、白刃が粉々に砕け散る。


 紫電が走り、滑稽な姿のフレドリックが吹き飛ばされる。


「貴女は……僕のお嫁さんになる約束でしたよね?」


 紫色の衣が、優しくミリアンナを抱き寄せた。


「……紫苑……くん……?」


「はい。

 僕の可愛いミリアンナ、迎えに来ましたよ」


 いつもより高い身長。

 吹き飛ばされたフレドリックと同じくらいの年齢……十八歳くらいだろうか?


「え……ええっ?!

 なんか、大っきくなってるよ?!」


「ふふ……ミリアンナのために格好良く決めようと思いまして♡」


 胡散臭い妖しげな微笑み。

 ミリアンナの髪に唇を寄せて口付け、顔を寄せる。


「っ……あ、ぅ……」


 フレドリックなど足元にも及ばない整った顔立ち。

 艷やかな紫色の髪が、サラリと揺れる。

 紫水晶の瞳が妖しく煌めき、細い割には靭やかな筋肉の付いた身体。


「花嫁を迎えに来ましたので、それなりの格好をしてきましたが…………似合いますか?」


「う、うん……にあってる……」


 大国の王族にだって……きっと、準備できない。

 それほどに、上等な夜会服。


 ミリアンナと対になっていることが、はっきりと分かる白と紫の布。


 藍色の大粒の宝石と白金の装飾品。


「衛兵っ!

 不審者がっ!」


「騎士たちは、何をしているっっ!!」


 駆け寄った騎士に手を借りて、フレドリックが頭を振りながら起き上がる。


「王太子である私に手を出すなどっっ……お前たち!

 さっさと、その下衆と糞女を血祭りに上げろっっ!!」


 王太子とは思えない汚い言葉を、フレドリックが唾を飛ばしながら叫ぶのだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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