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婚約者を義母妹に奪われた地味令嬢ですが、雷の精霊様の溺愛が止まりません〜不屈の心で反撃いたします!〜  作者: ぶるどっく


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第九話



「今日も良い天気!

 しっかり服も乾くから助かるわ」


 白い雲の浮かぶ青空を見上げて、ミリアンナは微笑む。

 住処にしている小屋の側に作った洗濯干し場には、ミリアンナの服とシーツが風に揺れている。


「おやおや……貴族のお嬢様の台詞とは思えませんね」


「う……だって、しょうがないもの!

 汚れた服は嫌だし、清潔なシーツで寝たいじゃない」


 ニコニコと洗濯籠を持ちながら、ミリアンナのポニテールへと紫苑は手を伸ばす。


「……何で髪を触るの?」


 流れるような仕草で、何の気負いもなくミリアンナの髪に触れる紫苑。


「(……何でだろ……なんか、紫苑くんに触られると照れちゃうっていうか……?

 ドキドキして、恥ずかしい……変な、気持ちになる……)」


 宝物を触れるように優しい紫苑の手に、ミリアンナは何故か胸が高鳴ってしまう。

 そして、熱を持っていく頬の赤みを見た紫苑に、変に思われないか不安になる。


「……馬の尻尾みたいに揺れているので、神経が通っているのかと思いまして。」


 楽しそうな紫苑の返答に、ミリアンナの頬が別の意味で赤く染まる。


「誰が馬の尻尾よっ!

 女の子の髪を馬の尻尾扱いしないでよね!」


「どうして怒るんですか?

 暴れ馬みたいに元気が良くて可愛いと褒めているんですよ?」


「いつも言ってるけど!

 動物に例えられて可愛いって言われても嬉しくないのっっ!!

 だいたい!女の子に暴れ馬は褒めてないもの!!」


 不思議そうにコテンと首を傾げる紫苑に、ミリアンナは頬を膨らませる。


「僕は、可愛いと思いますけどねぇ……」


 頬を掻きながら不思議そうな紫苑に、ミリアンナは拗ねたように唇を尖らせる。


「(女の子の髪型を馬の尻尾だなんて、お父様みた…………っ……)」


 ミリアンナの瞳が揺れ、脳裏に幼い頃の一幕が蘇った。



 初めて髪をポニテールに結い上げた幼いミリアンナが、鏡の前でくるくると回っている。

 その姿を愛おしそうに見守る男女。

 

 それは、在りし日のミリアンナの両親。


『ミリアンナは、その髪型がよく似合うね』


『本当っ?!』


『ああ、本当だよ。

 お馬さんの尻尾みたいで可愛いね』


『……おウマさん……』


『え、あれれ……?!

 ど、どうして泣きそうな顔になるんだい、可愛いミリィ?!』


『……あなた、女の子に馬の尻尾は微妙ですわ』


『えっ?!とても可愛いと思ったんだけど……!』


『ミリアンナ、ミリィ。

 悲しい顔をしないで、私達の可愛い宝物。

 貴女は世界で一番可愛い、私達の自慢の娘よ。』


『お母さま……!』


『ごめんね、可愛いミリィ。

 とても可愛いと伝えたかっただけなんだよ……』


『お父さま……』


 落ち込んだ父の背中をしょうがない人だと見詰めていた母。

 そんな母がミリアンナの側へと近付き、優しい笑顔で抱き締めてくれた。

 

『お母さま、お父さま!

 ミリィは、二人が大好きです!』


 満面の笑顔で愛を伝えれば、ミリアンナと同じかそれ以上に愛に満ちた笑顔で愛を返してくれた両親は……もう居ない。

 

 


「っ……ぅ……」


 蘇った愛しくも……喪った温もりの幸せだった思い出。

 二度と戻らない幸せに、ミリアンナの心が締め付けられる。


「ミリアンナ……」


「っ……ごめんね、紫苑くん!

 何でもないの!」


 たくさん助けてくれている紫苑に心配をかけないように。

 熱が集まりかけた瞳をゴシゴシと腕で豪快に擦る。


「……そんなに擦ると赤くなっちゃいますよ」


「平気だもん!

 このくらいで赤くなったりしないわ!」


 無理矢理に止めた涙に気が付かれないように。

 一生懸命にミリアンナは、いつもの笑顔を浮かべた。


「さあ、今日も頑張るわ!

 紫苑くんのお陰で、果物と水には困らないんだもん。

 それ以外のことくらい、もっと自分で出来るようにならなきゃ!」


「…………」


 元気だとアピールするように笑うミリアンナを、無言で見詰める紫苑。


「……前ね、執事長のジョナ爺から果物ばかりでは栄養が偏るって言われたの。

 だから、果物以外の食べ物を手に入れなきゃって思って…………野草とかで食べれる野菜ってあるのかな……?

 あれ……野草で野菜なら……普通に、野菜なのかな……?」


「……泣いても構いませんよ」


「っ……」


 誤魔化すように話題を変えるミリアンナに、紫苑が優しく告げた。


「僕が泣いた時は、ミリアンナが側にいてくれる。

 だから、ミリアンナが泣いた時は僕が絶対に側にいますから」


「っ……」


 紫苑の優しい声音に、引っ込んだはずの涙が溢れそうになる。


「ぅ……紫苑、くん……お願いだから、これ以上……優しくしないで。

 私、は……フランソワ侯爵家の令嬢で、王太子様との婚約も、あるの。

 だから……だから……!」


 ミリアンナは、紫苑を好きになる訳にはいかない。

 好きになっても、辛いのはミリアンナなのだ。


「(……どんなに嫌でも……お父様と陛下がお決めになった婚約……。

 お義母様の一存では、簡単には覆せないはずだわ……)」


 ミリアンナとて、まだ八歳のリリアーナを膝に乗せ、ケーキを口元へ運ぶ……。

 ……さらに言うならば、クリームで汚れているからと、リリアーナの唇の横を舐めるような気色の悪い野郎は断固お断りである。


 しかも……あの時、リリアーナの唇の横にクリームなんて絶対に付いていなかった!


「(ひっ……思い出しただけで気持ち悪いっ……!

 一応なりとも婚約者の目の前ですることじゃないし……。

 リリアーナが王太子様の婚約者なら……セーフなの?

 でも、婚約者でもない八歳の義妹になる女の子に手を出す奴が大人しく成人まで待つ…………?

 幼女が好きな場合って成人したら好きじゃなくなるのかしら……?)」


 そう言えば……ミリアンナも十歳になる前は、もう少しだけ王太子から優しくされていた記憶が蘇った。


「(……嫌なことに気が付いちゃった……)」


「…………ミリアンナ、それなりにいい雰囲気だったと思うのですが。

 もの凄く気持ちの悪い事実を発掘して、僕に地味にダメージを与えないでもらえませんか?」


 げんなりとした紫苑が、ミリアンナへとため息混じりに告げた。


「え……あ!

 ごめんね、紫苑くん!」


「…………本当に一筋縄では行かないというか……。

 まぁ……フランソワの血筋ですかねぇ……」


 紫苑の予想を裏切る言動は、最早血筋の成せる技なのだろうと笑ってしまう。


「…………やはり、邪魔ですね……」


 慰めてくれようとしたのに、と慌てて謝るミリアンナへと優しく微笑みながら…………紫苑は小さく呟く。


 その言葉は、ミリアンナの耳にも届くことは無かったのだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。

最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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