三流以下
師匠の意思を継いで5年。誰にも評価されない剣を作り続ける鍛冶師・ライト。
酒に溺れる日々の中、魔物に襲われた少年が駆け寄ってくる。
彼が抜いた一本の剣が、ライトの停滞した時間を動かし始める――。
あの日から5年が経過した。
「悪くはないけど、これといって特徴がないよね」
俺の作った剣は、誰に見せても、誰に振らせても、良い言葉が返ってこない。
汎用性のある剣は一定の需要があるため、家賃はギリギリ払えている。だが――
肝心の自信作は、半年に1件の注文があるかないかのペース。
師匠の名は、もう誰にも効かない。
(やっぱり爺ちゃんの孫だからってだけで、これといった才能はなかったんだ)
夜は酒を浴び、目が覚める頃にはズキズキする頭痛に悶え、日が昇れば何時ものように街へ出かける。
道中、虹色の吐瀉物を溢しながら。
工房から歩いて3時間ほどの大通り。ここ2年、作り上げた自慢の剣を大々的に披露するも、買い手は全くつかない。むしろ可哀想な目で見る婦人方から、少しばかりのチップを頂くのが関の山で――その度に虚しさを覚える。
――そんな中、何時ものように街頭にコップを置き、柄頭で小石を手玉に弄っていると、一本の剣の修理依頼がやってきた。
「おじさん、助けて……ぐすっ……助けて!」
見たところ、まだ学び舎にも通えない背丈の子供。左肩には何かで裂かれたかのような浅い傷。服は汗でびしょ濡れで、脚は震えている。
話を聞くと、剣士の父と行商人と一緒にこの街へ向かう途中、森で魔物に襲われたという。現在父は対応中。2キロほど走って辿り着き、冒険者を探していたところで、最初に目についたのが俺だったらしい。
似たような傷を負った冒険者を思い出す。確かあいつは言っていた。
「隻眼のローンウルフにやられた。一人で向かってたら死んでた。仲間に感謝してる」
と。
だが俺は鍛冶師だ。剣を振るって魔物と戦うのは剣士の役目。俺が命を張る必要はない。何時ものように槌を叩き、剣を作り、街で売り込み、家に帰って酒を飲んで寝ればいい。
――そう、それでいいはずだ。
「誰かの曇った心を照らせ。それが鍛冶師の真の務めだ」
子供の必死な目を見て、爺ちゃんの言葉が蘇る。だが、今この時間、冒険者ギルドの連中は出払っている。
どうする、俺。どうする、どうする――
「おじさん、その剣、光ってる」
何だよ剣が光るなんて、そんな剣あるかよ。
「おじさん、剣!」
おじさんは剣じゃありません。
「ああもう、聞き分けのない大人だな! でぇーい!!」
少年が鞘に納められた剣の柄を両手で握り、勢いよく抜く。
瞬間、赤と青の火花が舞い、プレートに刻まれた模様が赤色に染まる。刀身がかすかに熱を帯びた。
「きれーい! 変な形してるけど、こんな剣見たことない! すごいね、おじさん!」
――懐かしい感覚だ。
「君の名は?」
「ルイズ」
「そうか、ルイズ。どこから来たんだ?」
「あそこの森。父さんと商人さんが……」
「ここで待ってろ。すぐ戻る」
そう言い残し、走り出す。
業務机の天板を背負って搬入している店員の下をくぐり抜け、昼下がりの人混みをすり抜け、森へ通ずる門を通過する。
走って10分ほどで着いた先には、今にも鉄製の剣を噛み砕こうとしているローンウルフと、右脚をやられて出血している鎧の男。その後ろの馬車に、小太りの商人が縮こまっている。
完全にウルフの背後を取り、太陽の燐光を刀身に反射させながら、ライトは空中へ飛び上がる。
一閃。
蒼い稲妻が走り、鎧の男も商人も目を見開く。
――鍛冶師として三流以下でも、この剣だけは超一流の出来栄えだ。
轟音と共に、魔獣の背中と腹部が貫かれる。巨体が倒れ、塵となって消えていった。
残ったのは、鍛冶素材となる牙が2つだけ。
「息子さんが待ってる。早く行ってやれ」
去っていく馬車を見送り、剣を鞘に納めると、ブレードの色はすでに消えていた。
「……一本、作るか。どうせ三流以下の出来だろうけどな。」
口元が、少しだけ緩んだ。




