3-12 転生魔獣モフシロン、勇者パーティを追放された落ちこぼれテイマーと旅をする
平和な日本の中年サラリーマン『ヤマダ』は、気が付いたら転生して、とても大きな魔獣になっていた。しかも、前世に飼っていた真っ白なポメラニアン『モフシロン』と瓜二つ!
しかし、候補の名前がいくつもある故に、自分の本名を決められずにいた彼は、今日も西の森でチート魔法を持て余しながら生きていた。
そこに突然、勇者パーティを追放された低ランクの落ちこぼれテイマー、エリオットが現れて?
これは、後に伝説の魔獣と伝説のテイマーとなる一匹と一人の、のんびり冒険物語である。
吾輩は。魔獣である。名前は、まだない。
いや、あるに越したことはないのだが、候補となる名前がいくつかあって、決める事が出来ない。
わたしは、転生を経験した、とても大きい魔獣だ。
前世は普通の人間で、日本という平和な国に住んでいた男だった。
その男の名前は、『ヤマダ』という。とても平凡な、中年のサラリーマンだ。
だから、わたしのことは、『ヤマダ』でも『ヤマちゃん』でも、好きに呼んでくれ。
また、わたしのこの身体は、前世のとある動物に瓜二つだった。
全身真っ白でフワフワな犬。日本の人間はそれを、ポメラニアンと呼んでいた。
そして、そのポメラニアンは、ヤマダの飼っていた犬でもあった。
そのうえ、名前まで付けて貰っており、その犬は『モフシロン』と呼ばれて可愛がられていた。
もしかしたら、そっちの方が、この身体に似合うのかもしれない。
つまり、わたしの名前は、今のところ三種類あるということだ。
だからこの場で決める事が出来ない。
前世でも今世でも、優柔不断な自覚があるからな。
それにしても、未だに名前を決めてくれる人間が、わたしの住んでいる西の森に現れない。
転生者であるが故に、チート魔法が備わっているというのに。
ありとあらゆる魔法を使いこなせるうえ、人間や魔物の鑑定も、もちろん可能。
なのに、この大きな森では、使う事があまりない。
夜になったら、木を雷で割って、口から炎を出し、焚き火をするぐらいだ。
さて、自己紹介はこのぐらいにしておこう。
なぜなら、わたしが知っている自分の情報は、これで全てだからだ。
どうやってわたしが転生したかも、前世の最後の記憶が曖昧で、分からないからな。
という事で、今日もこの静かな森で、魔獣一匹で、のんびり過ごすとしよう。
そう思ったわたしは、太陽が水面に映る湖の側まで足を運んだ。
ゆっくりと腰を下ろし、唐突に眠気が襲ってきて、大きな欠伸を一つする。
すると、今まで感じた事のない人間の気配がし、徐に立ち上がった。
「ウゥ〜、キャンキャンキャン!(誰だ!この森にやってきた人間は!)」
「うわぁ!び、びっくりしたぁ。勇者パーティを追放されて、落ち込んだままここに来たら、まさか大きい魔獣に出会うだなんて……」
「ウ?キャゥン?(ん?勇者パーティを、追放された?)」
木の影から突然現れた人間の独り言に、わたしはその場で首を傾げた。
……なるほど。このいかにも魔術師っぽい格好をした人間は、どうやら勇者の仲間だったらしい。
『追放された』という事は、彼はいわゆる無能と判断されたという事か。
しかし、勇者パーティの一員なのだから、それなりに実力はあるはず。
よし。ここからは、わたしのチート魔法の出番だ。
殆ど使用していなかったものだから、上手く行く自信はないけどな。
わたしは、この人間の顔を見ながら吠え、目の前に鑑定画面を出した。
人間のステータスは、このようになっていた。
『名前:エリオット
年齢:二十歳
職業:テイマー
ランク:Dランク』
「ウゥ……キャウン、キャン(ふむふむ……この人間は『テイマー』なのか。しかも、ランクが低いな)」
「あ、やっぱりそうですよねぇ。僕、まだDランクのテイマーなんですよ。動物の話す言葉が分かる特殊能力持ってます。魔獣さんは、鑑定士なんですか?」
「キャン。キャウキャゥ……キャウン!?(まぁ、ある意味そうだな。わたしはチート魔法でお前の鑑定が可能で……えっ、わたしの話が理解できるのか!?)」
「はい、そうです!ただ、鳴き声での意思疎通は出来ないんですけどね」
そう言いながら、この人間・エリオットは後頭部を掻いた。
確かに、動物の話す言葉が分かるのは、動物を使役するテイマーとしては優秀だと言える。
しかし、勇者パーティにいて未だにこのランクとは、なぜ……。
「キャウ、アゥン?(もしや、今まで十分な能力を発揮出来ていなかったのか?)」
「えっ!?なんでそれを知っているんですか?い、いやいや。初対面で僕のこと人間って呼んでたから、それはないか」
「アウ。アォン、キャン(確かに、わたしとお前は初対面。この森は魔王城に近い故、最低でもAランクはないと戦うことはできないだろう)」
「そうそう、そうなんですよ!でも、僕はただの足手纏い。出来ることとしたら、森の無害な動物たちを避難させたり、アルミラージ十匹を使役して、敵を足止めするぐらいで」
「キャウキャウン!?キャンキャン!キャァウ!(アルミラージ十匹!?つまり、あんなにも獰猛で手をつけられない、レアな一角ウサギが十匹だと!?それはあまりにも高度で規格外すぎる!それなのに、なぜなんだ!)」
Dランクとはいえ、こんなにも優良物件な人間がいるというのに、何故勇者パーティはこの者を追放したというのだろうか!
あぁもう、胸糞すぎて勇者パーティを壊滅させたくなってきたじゃないか!
いや、もう今すぐ、このチート魔法を駆使して壊滅させねば!
わたしは優れた嗅覚を研ぎ澄ませ、他の人間がいる場所を特定し、牙を剥き出して走る体勢に入る。
そして、素早く前足を動かそうとした次の瞬間、体毛に何かがフワッと当たる感覚を覚えた。
そう、エリオットが必死の形相で、わたしを抱きしめて止めようとしたのだ。
「だ、ダメです!この行動から察するに、この先の勇者パーティに何かするつもりですよね!?すごい殺気でしたよ、魔獣さん!どうせ、僕はランクもたいして上がらない足手纏いの落ちこぼれテイマーなので、そこまで怒る必要は……ふぁあぁ!魔獣さんの毛並み、フッワフワだぁ!」
「……クゥン。キャン(……すまない。怒ると理性が飛んでしまってな。なんか、お前の行動を見てると気が抜けるな)」
「そ、そうですか?ふふっ、嬉しいですぅ。スヤァ」
「キャン!キャンキャン!(ね、寝るな人間!いや、寝るんじゃないエリオット!)」
急にわたしの体毛で寝始めたエリオットに、怒りを通り越して、なんか少し呆れてくる。
だが、こういうのも悪くないし、ポメラニアンの体毛は抗えない魅力がある。
その幸せを奪う者なら、遠慮なく暴れてしまうかもしれないしな。
しばらく、わたしはエリオットの毛布がわりを務め、数十分後に彼は目覚めた。
エリオットの顔はとても真っ赤で、どうやら恥ずかしい行動をしていた事に気付いたようだった。
「魔獣さん!先ほどは、あの場で寝てしまって、申し訳ありませんでした!」
「キャウン。キャンキャン。クゥン(大丈夫だ。わたしもお前のおかげで冷静になれた。なに、勇者パーティの面々が魔王討伐を終えた後でも、問題ないしな。そのためには、より強くならねば)」
「えっ、魔獣さんも強くなりたいのですか?だったら、今から僕とパーティを組んでくれませんか?と言っても、こんな弱い僕は足手纏いになりそうですけど」
「キャウン!?キャンキャン、キャウン!(はい!?確かにランクは低いが、足手纏いと言えるほど落ちこぼれではないと思うぞ!)」
「そ、そうですか?そう言われるの、すごく久しぶりだったので、とても嬉しいです!そういえば魔獣さんは、お名前とかありますか?」
いきなり名前を聞かれて、わたしは一瞬頭が真っ白になった。
そういえば、まだ名前を決められていなかったのだった!
そのため、エリオットの顔を見て、ゆるゆると首を左右に振った。
「キャウゥ、アウ。キャン(わたしは、まだ生まれて間もない、転生した魔獣だ。名前はまだない。前世では『ヤマダ』か『ヤマちゃん』、そして犬の名前としては『モフシロン』とも呼ばれていた)」
「へ〜。貴方は、犬の魔獣だったんですね!じゃあ『モフシロン』と呼ばせて頂きますね!これからよろしくお願いします、モフシロンさん!」
「キャウン!キャンキャン。キャゥ?(あぁ!こちらこそ、よろしく頼む。そういえば、まだ従魔契約を結んでいなかったな?)」
「あ!そうですね。では、こちらに座って下さい」
わたしは、エリオットの隣に行き、地面にゆっくりと座る。
すると、わたしの額にエリオットの手が触れ、そこから彼の契約魔法が発動した。
「これより、魔獣『モフシロン』は、我が眷属となり、仲間となる。契約が切れるその時まで、私の手と足となり、苦楽を共にし、お互い切磋琢磨し続ける事をここに誓う」
「キャウ。キャウンキャン(わたしも、この従魔契約を受け入れよう。エリオットよ、わたしも気をつけるが、ぐれぐれも足を引っ張らないようにな)」
「ふふ、わかってます。勇者パーティのメンバーとは仲違いしてましたが、よくよく考えると、契約した動物や魔物とはとても仲良くしてましたから」
「キャン。キャウキャウン(そうか。じゃあ、安心だな。これからよろしくな、エリオット)」
「はい、モフシロンさん!いい冒険の旅にしましょう!」
こうして、わたしの名前は『モフシロン』となり、テイマーのエリオットと共に、旅をする事になった。
これが、後に伝説の魔獣と伝説のテイマーとなる、わたしたちの始まりだった。





