3-09 違法少女借りパクきな子 〜違法の国のプリンセス〜「いやそれただの犯罪だから」
違法少女借りパクきな子は幼い柚子の「母に会いたい」という願いを叶えるために五つの宝物を集める決意をする。その五つの宝物とはエルメスのバッグ、プラダの靴、カルティエの腕時計、グッチのサングラスそしてシャネルの香水……そう、これはファンタジーでも何でもなくて幼い柚子を捨てた母親に怒ったきな子が地方の政治家の父親の力に物を言わせたり違法な行為を働いたりして幼馴染の黒ミツと共にひと暴れしちゃう現代劇である。
「違法少女借りパクきな子。違法の国のプリンセス」
「いやそれただの犯罪だから」
決めポーズを決めて決め台詞を言うきな子に毎度毎度の同じツッコミを入れる黒ミツであった。
いや、黒ミツというのはもちろんあだ名だ。本名は國光というのだがいつもきな子と一緒に居るのでこのあだ名で呼ばれるようになった。
「捕まらなければいいのよ」
「なんで捕まらないんでしょうね?」
「そりゃあ、現行犯でしか捕まらないようなことを監視カメラを避けて……」
実際、きな子は監視カメラを見つけるのが上手い。どうせ監視カメラを設置するのなら大切なものを見たいし、でなければ効率良く広い範囲を見たいと思うのは当然のこと。だが、それを逆に辿れば監視カメラの発見を容易にする。
「それだけか?」
「なによ?」
「親父さんの力じゃないの?」
きな子の父は地元では名の通った政治家である。
「それを言うなっ! 私にこんな名前を付けたアイツは許さない!」
「きな子」というのはあだ名ではなく本名である。どうしてそんな名前にしたかというと……。
「『将来、選挙に出たとき名前だけでいくらか票が稼げそうだから』ですってぇ〜?」
「実際、大いにありそうな話で怖いんだけどな」
そして、思春期を迎えた娘は絶賛、父親への反抗を体現していた。
その出で立ちはというと、超丈の短い半袖のセーラー服に超ミニのチェックのスカート。髪はショートと呼ぶにも短く切って黄色く染め上げてスプレーで固めて立てている。
黒ミツは内心、
「ここまでしてもまだかわいいコイツって、普通にしてたらどんだけかわいいんだ?」
と思っていたが、余計な敵が増えても面倒なだけだから黙っていた。
ちなみに、きな子の通う高校は服装も頭髪も自由なので校則には全く違反していない。きな子はそれがちょっと物足りないようなのだが……。
黒ミツもきな子に付き合ってか改造制服のような学生服を着崩していたが校則的には何を着ても問題はないのである。
黒ミツの父はきな子の父の秘書の一人で、二人は生まれた日も近くずっと一緒に過ごしてきた。きな子が面倒事を起こして黒ミツが腕っぷしと機転でなんとかそれを切り抜けるという事が当たり前になるのにそう時間はかからなかった。
あるとき、きな子がひと気のない場所に呼び出されて告白された。黒ミツは物影から様子を見ていた。
きな子が断ると相手は聞いた。
「やっぱり黒ミツと付き合ってるの?」
きな子が返答に困っていたので黒ミツは物影から出て、
「んなこたぁ、どうでもいいだろ? 話は終わりだ」
と言った。
それを見て相手が、
「やっぱり付き合ってるんだね」
と言うのをかき消すようにきな子が、
「付き合ってないっ!」
と言うのに被せて黒ミツが、
「週二でヤってる」
と言い、そして一瞬の静寂が流れた。
「まだキスもしてないでしょうがぁぁぁあああああ〜〜〜〜〜!」
ときな子が黒ミツにグーで殴りかかったが、告白して来た男の、
「『まだ』ってことは、その内するんだね」
という言葉ひとつで二人は顔を赤くしてモジモジしてしまうのであった。
ある日、きな子と黒ミツの二人が近くのアーケード街を歩いていると、きな子の脚に弱々しい何かがまとわり付いた。きな子が立ち止まって足元を見ると小さな女の子が右脚に抱きついていた。
「ん? どうしたの? 迷子になっちゃった?」
きな子はしゃがんで女の子と目の高さを合わせて優しく尋ねた。
「お母さんとはぐれちゃったか?」
黒ミツは腰を落として声をかけた。
「……お母さんには五つの宝物を集めないと会えないの」
女の子は小さな声で言った。
「それはおとぎ話みたいなことなのかな? 妖精の粉とかそういうのを集めるみたいな?」
「だいたい合ってるけど、ちょっと違う」
「ちょっと違う?」
「うん。集めるのはね。妖精の粉とかじゃなくてね。エルメスのバッグとかなの」
「はい?」
きな子と黒ミツは顔を見合わせた。
二台分しかスペースがない月極駐車場の片方に酷くオンボロのハイエースがいつも駐まっている。実はここがきな子と黒ミツの秘密基地であった。いや、別に秘密でも何でもなかった。この駐車場も車もきな子の父親のものであり、彼の許可を得て使っている。きな子への愛というよりは黒ミツへの信頼で成り立っている場所だった。
座席は運転席と助手席しか無く、その後ろはただ平らで、床にはクッションシートが敷かれ、さながらリビングルームのようである。
きな子と黒ミツはその秘密基地のリビングルームに先ほどの幼女を招き入れて話を聞くことにした。
「……それでお母さんは私が生まれる前にお父さんと離婚しちゃったんだって。だから、私、お父さんに会ったことがないの」
柚子ちゃんは言った。よく喋る子だ。ああ、「柚子」っていうのは先程の幼女の名前である。
「お母さんの新しい恋人は、お母さんのことは愛してくれるけど私のことは愛してくれないんだって。だから、もう会えないんだって」
柚子ちゃんは涙を拭った。
「『本当にもう会えないの?』ってお母さんに聞いたら『五つの宝物を揃えたら会える』って」
「その五つの宝物って言える?」
黒ミツが聞いた。
「うん。えっとね。エルメスのバッグとプラダの靴とカルティエの腕時計とグッチのサングラスとシャネルの香水だよ」
「なんだか物欲に塗れたラインナップね」
きな子が呆れて言った。
「でもまぁ、ドラゴンの鱗とかじゃないだけマシ……」
「同じだよ」
きな子のセリフを黒ミツが遮った。
「同じなんだよ」
きな子に見つめられて黒ミツは繰り返した。
「確かにエルメスのバッグとドラゴンの鱗じゃ難易度は天と地ほど違う。でも、柚子ちゃんには手に入れられっこないって点においてはどちらも同じなんだよ」
きな子の目を真っ直ぐに見て黒ミツは言った。
きな子は俯いて唇を噛んだ。
「悔しいね」
絞り出すような声だった。
「悔しいよ、黒ミツ」
「ああ、悔しいな」
沈黙が流れた。
「揃えてやろうよ、五つの宝物」
きな子が言った。
「どう考えても何も変わらないぞ」
たぶん黒ミツの言う通りだ。
「それでもっ!」
声が大きくなるきな子。
「それでもさ……、悔しいから」
小さな声で。
「柚子ちゃん。揃えてあげるよ、五つの宝物」
黒ミツが柚子ちゃんに言った。
「いいの?」
遠慮がちに柚子ちゃん。
「ああ、このお姉ちゃんのお父さんはすごいお金持ち……」
「それはしない!」
きな子に遮られて黒ミツはきな子を振り返った。
「私は違法少女だよ。違法の力で集めます」
なんかドヤ顔のきな子を見て黒ミツは「ここで逆らうのは得策ではない」と判断した。しかし、だからと言って受け入れたくもなかった。
「まぁ、待ちたまえ。きな子さん」
「何よ?」
「エルメスのバッグとプラダの靴とカルティエの腕時計とグッチのサングラスとシャネルの香水。この中で一つだけ闇雲に盗んではいけないものがあります。それは何でしょうか?」
「えっ? どれも盗んじゃダメでしょう?」
(だったら盗むとか考えんじゃねーよっ!)と黒ミツは思ったが、それは口には出さずに、
「プラダの靴だよ。靴だけは本人のサイズに合わせなきゃ意味がない」
と言った。
「あー、なるほど!」
「それにさ、他のものだって実現不可能な無理難題として言ってるからアレだけどさ、実際に手に入るとなったら絶対に選びたいと思うぜ!」
「まぁ、そりゃーそーでしょーけど」
「だから、本当に買ってやるかは置いといて『買ってやるから選びに行こう!』って言って誘い出すのはアリじゃねーか?」
それを聞いてきな子の顔が輝いた。
「それだよ! 黒ミツ!」





