⑧赤い髪の前衛
舞台は日本・中国・オーストラリアの思想や文化が混在する未来都市「埠頭」。
金銭と引き換えに、VRMMO・ミリオンバレッツの勝たせ屋、傭兵として生き抜く少女シェン。
シェンがスカウトされた世界戦とは、何と、国の統治権をミリオンバレッツの四ヶ国トーナメントで決めるという、VRMMOを戦争の平和的代替とするという人類史上初の試みだった。
姜子が書類をしまいおわると、シェンに事務所の奥を案内した。
最初に見せられたの休憩室だった。少し物が多いが清潔そうな部屋だ。
二つベッドが置いてある。
「奥のベッドを使ってね。」
「私ここに住むの!?」
「手前のベッドは私が使っているの。仲良くやりましょ。」
「姜子さんと相部屋なの!?騙された・・・!」
シェンの現住所が事務所の住所になった。
「間にカーテンぐらい引くから。」と姜子。
この事務所に入居する時にフロア全体をリフォームしたらしく、
シャワールームもトイレもとても衛生的だった。少し機嫌が治った。
あと一部屋は物置らしく、スルーされた。
二人は机とソファーの部屋に戻って来た。
「ところで、お腹空いてるんだけど、出前でも頼んでくれるの?」
「ここにあるわよ!どうぞ!全部食べてもいいわ。」
それは乾パンが詰まった缶だった。
「ちょっと待って、まさか”提供する食料”って非常食の備蓄のこと!?」
「それだけじゃないわ!買い置きのカップ麺も食べていい。
一日二つまでね。」
「また騙された・・・!」
「騙してなんていないわよ。」
そのあと
「たまにピザ頼んだりしてるの。ピザは好き?」
ピザは好きだが・・・。普段食べるものの水準があまり上がっていない。
前よりマシか。
「シェン。この後、・・・あ、来たみたい。」
「誰が。」
「貴方のチームメイト。」
事務所の扉の前に人影が映った。コンコン、とドアを叩いた。
「入ってらっしゃい。」
「こんにちは!」日本語だ。
ショートヘアを紅く染めた少女。ツンツン髪だ。少しお化粧している。
イヤリングとチョーカーをして、
髑髏と天使の羽根がプリントされた白Tシャツを着た姿はパンクロッカーを想起させる。
ギターケースを担いで駅のホームにバンド仲間と立っていそうだ。
黒いズボンを履いているが、スカートは合わないと思うから正解だと思った。
「紹介するわ。彼女はナオミ・スカーレットよ。」
「あー、シェンです。よろしくね。」
「貴方がシェンちゃん!?」
パンクロッカーが身軽に近付いて来た。
「うわ~~!可愛い~!!世界一位がこんなに可愛い人だと思わなかった!」
「そんな・・・。ナオミさんこそ美人です。」
「私はお化粧してるの!シェンちゃんはノーメイクだよね!それでこんなに肌綺麗なの~?ずる~い!」
肩を掴まれて揺すられる。
「ちょっと、揺らさないで。」
世のパンクロッカーはこんなノリなのだろうか?
「ストップ!」とシェン。「オーソーリー!」とナオミ。
姜子がクククと笑っている。
「貴方達、気が合うと思ったのよね。」
「今の何を見て気が合ってると思ったのよ。」
「アタシはシェンちゃん好きだよ。」
ナオミの白い歯がこぼれた。
シェンはフゥーと一息つくと、
「ハーフだよね?」とナオミに訊いた。
「ザッツライ!オーストラリアと日本のハーフだよ。埠頭生まれ!」
今度はナオミが尋ねてきた。
「シェンちゃんって何歳?私16。」
「15歳です。」
「これからはお姉さまと呼びなさい。」
「急にキャラ変えないで下さい。」
姜子は楽しそうにキセルを吸っている。シェンが口を開いた。
「大会の件ってナオミさんには話してるんですよね?」
「話してあるわ。」
続けて、
「ナオミはこの事務所が、ミリオンバレッツ選手を雇う事になった時に唯一残ってくれたの。
他の子は皆、よそのタレント事務所に移籍して貰ったわ。」
道理で事務所で人を見かけないわけだ。
しかし、ということは。
「ナオミさんってタレントだったんですか?」
「そうだよ。アイドルでデビューしたんだけど、芽が出なくて。」
いやアイドル路線は無理だろ、とシェンはツッコみたい衝動を抑えた。
インディーズバンドで活動したほうがいいと思う。
「その子、強いわよ。アサルトライフルでレート2.0以上あるわ。」
「あたし、ミリオンバレッツ大好きでチームリーダーやってたの。」
シェンは心の中でナオミを見直していた。前衛はレート2.0あれば強プレイヤーと呼べる。
前衛はエネミーに姿を晒すことが多いからだ。
いくら後衛のスナイパーが強力でも、前衛がすぐ崩れては狙撃する状況が整わない。
「ナオミさんの人脈で強い選手を仲間にできませんか?」とシェンが問う。
ナオミは初めて困り気な顔を見せた。
「んー。自分のチームメンバー以外とはあまり繋がってなかったんだよなー。
そのメンバーとも音楽性の違いで散り散りになっちゃたし。」
この人はやはりパンクロッカーなのではないか??
つづく
副題: -One of Million Bullets-
読んで頂きありがとうございます。できれば評価お願い致します。




