⑮美鈴と藍
「私、居てもたってもいられなくて。サティちゃんは何で明日会おうって言ったの?」
「シェンちゃんが、忙しそうだと思ったから・・・。
でも、私も今日話したかった・・・。」
ベンチの隣に座ろうとすると、サティが口を開いた。
「シェンちゃん、私の秘密の場所に行かない?」
サティはシェンを”秘密の場所”に案内した。
それは公園の隅にある小さめの倉庫だった。
取り壊しが決まって立ち入り禁止になっているのだが、
裏の窓に鍵がかかっておらず、そこから中に入れる。椅子が何脚かある。
倉庫の天井には大きめの明かり取りの窓があり、月明りが倉庫全体を照らしていた。
「どう?私の秘密の場所。」
椅子を勧めながらサティが尋ねる。いたずらっ子のようだ。
「とってもワクワクする。」
二人でにまーと笑い合った。二人は各々椅子に座る。
二人の少女は月の光に濡れながら向かい合った。
そして、サティこと杉浦美鈴は被っていたフードを外した。
「ここならシェンちゃんしか見てないから、これ外せるね。」
シェンは、初めてサティの顔をじっくり見て、そして確信した。
サティは美人だ。鼻筋がすっきりしている。
鼻が高くてモデルのようだ。
「サティちゃん、顔隠すの勿体ないよ。美人なのに。」
サティは驚いたようだった。
「私、美人じゃないよ。」
謙虚というより、サティからは自分の容姿に自信が無さそうな印象を受ける。
しばし沈黙の後、会話が再開された。
「サティちゃんが明日会って話したかったことって何?」
「・・・私、シェンちゃんのこと、知りたいと思って・・・。」
「嬉しい!私も美鈴ちゃんのこと知りたい!」
急に実名で呼ばれてサティは驚いたようだった。
「藍ちゃんはいつから世界ランキング一位なの?」
応えるように、サティはシェンを実名で呼んだ。
「12歳の時。家出する少し前かな。」
「藍ちゃんって家出してるの!?・・・だから事務所に住んでるってこと?」
「そういうこと。」
シェンこと神里藍は家出してから勝たせ屋として中国全土を転戦していたことや、埠頭に来てからのこと、そして姜子の事務所に入ったところまでを順に話した。
「藍ちゃんすごい!かっこいいよ!本物の傭兵みたい!」
「傭兵暮らしはあんまりいいものでもないけどね。」
と言って藍は頬を掻いた。
「12歳の時既に世界一位だったんだよね?何年間ぐらいミリオンバレッツやってたの?」
「ミリオンバレッツ自体は覚えてないくらい子供の頃から。日常的に身内同士でローカル対戦してたの。
その頃は楽しかったなぁ。
ランキング戦に参加し始めたのは10歳から。11才の時に初めて、5位で世界ランキング入りした。」
「それがシェンちゃんの強さの秘訣かぁ。」
「美鈴ちゃんは?ミリオンバレッツの経験長いの?」
「ミリオンバレッツは埠頭に来てから始めたの。
だから12歳から、3年間くらい。」
「え、3年間でそんなに強いの!?」
サティは決心したような顔で自分の来歴を語り始めた。
「私の家って、軍人の家系なの。」
サティの両親は共に軍人だったのだという。
両親はサティにも立派な軍人になって欲しかったが、
サティは生まれつき「肌がすぐに日焼けして傷んでしまう体質」だった。
それはサティが軍人になれない事を意味した。
昼はフード無しでは外にも出られないサティに二人は非常に落胆したとのことだ。
両親を振り向かせる為にライフル射撃を始めて中国で優勝、アジアカップで一位になってみるも、両親がサティに興味を持つことは無かったという。
「だから私、新しい生き方を見つける為に埠頭の高校に進学させて貰ったの。
今は埠頭にいる叔母さんの家に住んでるわ。」
そこまで話してサティは気付いた。
「藍ちゃん、私の為に泣いてくれるの?」
シェンは両目から真っすぐな涙を流していた。
シェンの涙の半分はサティのために流れたが、もう半分は自分の為に流れた。
シェンはサティを自分に重ねていた。
「私、私も、親の期待に応えられなかったから・・・。」
「藍ちゃんが?」
シェンは母親に預けられてから徹底した英才教育を強いられていた。
日本語と英語のレッスンは当然として、中学入学時には高校3年生までの範囲を先取りで学習させられていた。
習い事もピアノやバレエ、華道など増えていくばかりだった。
高校は英語圏の名門校を受験し、大学はアイビーリーグの一校に入るようにと言われ続けた。
限られた自由時間でプレイするミリオンバレッツだけが救いだった。
シェンを倒すために全力で迫るエネミーと弾丸の雨だけがシェンの心を洗った。
生きていると感じた。
しかし中学に上がった時、ミリオンバレッツは禁止と言われた。遊びは子供の時までとのことだった。
シェンは叫んだ。その言葉はよく覚えている。
「私は貴方の人形じゃないっ」
シェンはそのまま家から飛び出し、そしてミリオンバレッツの勝たせ屋になった。
「神里藍」が「シェン」になった日だ。
「藍ちゃん・・・。」
サティは泣いていた。シェンも涙を流した。
二人は手を握り合い、そして抱き合った。
静寂。とても静かな夜だった。
月明かりが二人を優しく包み込んでいた。
つづく
副題: -One of Million Bullets-
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