⑩”領域”を持つもの
舞台は日本・中国・オーストラリアの思想や文化が混在する未来都市「埠頭」。
金銭と引き換えに、VRMMO・ミリオンバレッツの勝たせ屋、傭兵として生き抜く少女シェン。
シェンがスカウトされた世界戦とは、何と、国の統治権をミリオンバレッツの四ヶ国トーナメントで決めるという、VRMMOを戦争の平和的代替とするという人類史上初の試みだった。
この日、ミリオンバレッツのソロモードは異様な様相を呈していた。
二人の抜きんでたプレイヤーが圧倒的キル数を稼ぎ、他のプレイヤーはほとんどの時間をスナイパーから逃げ惑い続けていた。
フィールドに軽い雨が降ってきた。天気雨だ。
途中から天候が変わるのは、ミリオンバレッツではよくある趣向だ。
しかし変わったのは、フィールドの天候だけでは無かった。
シェンは、自分が今”ゾーン”(領域)に入っていることに気付いた。
シェンは強敵に相対した時、ゾーンに入ることがある。
ゾーンに入ると、全てがゆっくりと動いているように感じる。
戦場に降る雨の一滴一滴が見えるようだ。
そして、自分を頭上から俯瞰して見ているような感覚が発露する。
ゾーンはオリンピック選手等のトップアスリートの世界では有名な話であり、ゾーンを持つという事はシェンがトップアスリートに序される証明でもあった。
シェンはワイヤーでスイング移動しながら平地の遮蔽物に隠れたエネミー1人をヘッドショットした。
縦横無尽。どこからでも撃つ。雨のシチュエーションでも精度は鈍らない。
シェンがキルを取るのと同等の間隔でサティはキルを取る。
一応シーソーゲームの形には成っているが、これでは目的を果たせない。
シェンの目的は、サティに世界戦の仲間になって貰うことだ。
”自分より強い”と思って貰わないと話を聞いて貰えないだろう。
このままキル数を積み重ねても説得材料にならない。
試合に勝つのは最低条件。
1 on 1でサティを倒す。それが絶対条件だ。
スナイパーに対するカウンタースナイパー。危険だが、時にそれは必要になる。
ゾーンに入ったシェンにはサティの大まかな射程距離がフィールドの上に円の形で見えている。
恐らくサティにも似た能力がある。
ここまで二人が邂逅しないのは、二人がお互いの射程に入ろうとしない為だ。
不入虎穴,焉得虎子。虎穴に入らずんば虎児を得ず、と言う。
故にシェンは危険を犯す。
サティの牙が届く範囲、射程の中に足を踏み入れる。
___ドクンッ___
心臓が高鳴る。ここはサティの狩場だ。
その時、仲間がキルを取られたという通知が入る。このプレイヤーはサティの領地でサティを叩こうとしていたはず。
つまり、このプレイヤーが倒れた地点の近くにサティがいるかもしれない。
ワイヤーでビルの縁から縁に飛び移って移動する。仲間がキルを取られた地点の近くのビルに飛び乗ると、すぐに腹這いになる。
両目でサティを探す。距離1000に標準アバターのスナイパーを発見。
サティだ!見つけた!確定距離!撃つ!
サティはこちらを向いている。立ったままライフルを構えている。
私なら先に撃てる、撃たねば、撃つ、
引き金を引く、
___ターンッ___
ほぼ同時に2丁のライフルが放たれた。
弾がシェンの頬を掠めた。近くのコンクリートの床に着弾する。
全身から汗がぶわっと噴き出す。
サティは!?
サティは視界の中にいない。キルアラートもない。
仕留められなかった。
(久々に狙撃を外した・・・。)
カウンタースナイプは命をかけたにらめっこだ。
先に撃っても命中しなければ意味が無い上に、無防備な状態で相手の狙撃を待つことになる。
お互いが外すというのは珍しいケースで、二人の力が拮抗していなければ起き得なかっただろう。
残り11分
埠頭最強の称号は誰の手に。
副題: -One of Million Bullets-
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