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 先程までの楽しげな様子はなりをひそめ、部屋は寒気がする程しんと静まり返った。


 子爵は戸惑いを隠しきれず、視線を彷徨わせている。

 キャスリンを挟んで反対側に座る子爵夫人も同様である。

 不思議な表情をした子爵と顔を歪めている夫人の間で、キャスリンは憮然としている。


「お二人は、キャスリンに会いにいらしたのではないのでしょうか?」


 子爵は目の前のランドルフとクリフォードに尋ねる。


「私たちは、エメライン嬢に会うために訪ねている」


 ランドルフが答え、キャスリンを指し「こちらの妹君が」と話を続ける。


「親切にも『いつでも訪問して良い』と言ってくれたのでね」


 その言葉を聞き、キャスリンは眉を顰め子爵のいる左側を向いた。するとランドルフたちにはキャスリンの右側の側頭部が見えたのだが、ランドルフはその右耳の後ろ辺りで光を放っている、見覚えのある髪飾りに目が止まった


「……っその、髪飾りは――」


 重苦しい空気を破るように、キャスリンは「あっ」と細かい銀細工の髪飾りに触れ、

「ありがとうございました! 嬉しかったです! こんな高そうなものを……とても気に入りました!」

 と明るい声色でランドルフに言い放った。


「気に入……って、それは妹君に送ったものではないのだが」

「え? 私とお姉さまの名前を間違えたのだろうと思ってました! お母様もそうだろうって。ね、お母さま」


 キャスリンは今度は右側に座す母親の方を向き、今度は反対側の側頭部が向けられた。

 左耳の付近に同様に光るものがあり、今度はクリフォードが剣のある表情で「君、その髪留めは」と見咎めた。


 指摘された左側の、小さな宝石が埋め込まれキラリと輝く髪留めに触れたキャスリンは、

「こちら……こちらはお姉さまがいらないって、私にくださって」

 とおどけたように肩をすくめた。


 ランドルフとクリフォードは思わず顔を見合わせた。


 自分たちがエメライン嬢へ贈った物が妹のものになっているとは、一体、どう言うことなのか。


 クリフォードはランドルフの怒りを堪える表情を見、「あ、これやばいやつだ」と心の中で呟く。

 そう言う自分自身も、ぶつけようの無い怒りを心の中で持て余していたのだが。


 何にせよ、一度エメラインに確認を取りたいところだ。この理解し難い状況のまま帰途に着くなど到底許せるものではない。

 恐らく、勝手に着服したのであろうが――


 子爵は目の前のやり取りに目を白黒させていた。どうやら話が全く見えていないようだ。母親とキャスリンが勝手な行動に出ただけと言う可能性はある。

 などとクリフォードが思案していると、隣で怒りをなんとか抑え込んでいる様子のランドルフが口を開いた。



「すまないが、それはご令嬢と名前を間違えたのではなく、正しくエメライン嬢へ贈ったものだ。手紙も付けたと思うが、そちらにもご令嬢の名前は一切記していないはずだ――エメライン嬢と話をしたいのだが?」


 ランドルフの怒りが薄ら伝わったのか、キャスリンや夫人は先程までの楽しげな様子は抑え込んでいる。

 子爵はオドオドとした様子で答えた。


「――エメライン、ですか。キャスリンではなく、エメライン――姉の方はその、少々変わっておりまして、あの……」

「エメラインが変わっているとかいないとか、そういう話をしていない。話をしたいと言っているのだが?」


「あ……それがその、本日は不在にしておりましてですね」

「では、さっき執事殿が言っていた『お嬢様をお呼びしましょうか』との言葉は誰のこと?」


 見ると子爵は青い顔をし、額から汗が滑り落ちている。視線があちこちに泳いでおり、明らかに動揺しているようだ。

 そんな子爵にキャスリンを挟んで向こう側にいる夫人が、睨むように視線を送っている。

 キャスリンは憤怒の表情を最早隠しもしない。


(なんだこのカオス……)と、クリフォードは一応当事者でありながら、俯瞰した状態で眺めていた。


「……え、あの、その、あー実は、エメラインは用事がありまして」

「私たちが話をしたいと言っている、それよりも大事な用事があると?」


 子爵はぐっと鈍い声を出し押し黙った。


 するとランドルフは「らちがあかんな」と突然立ち上がり扉に向かった。

 クリフォードも慌てて立ち上がり後に続くと、背後で子爵が慌てた様子で「お待ちください!」と懇願するような声で追いかけてくる。複数人の足音が聞こえたので、夫人やキャスリンも続いたのかも知れない。



「……あったまきた。絶対エメライン嬢に会う」

 と、ランドルフの低い声の呟きが聞こえ、刹那勢いをつけて扉が開かれた。


 開いた扉の向こう側は、丁度赤毛の若い男が通りかかるところであった。

 男は突然開いた扉に驚きの表情を向け、思わず足を止めてしまったようだ。


 その男に、ランドルフは声をかけた。


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