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「奥様、……少しよろしいでしょうか」
スタンスフィールド子爵夫人、イライザは顔を上げ、扉で様子を伺っている執事を見遣った。
「ええ。何かしら?」
了承を得た執事は恭しい様子で室内に足を踏み入れた。
彼は、普段はあまり感情を表さない人物なのだが、その日は少々浮き足だった様子が感じられ、イライザは首を傾げた。
執事は、イライザが座しているソファーのローテーブルに持参した幾つかの物を並べた。
封書が二通、そしてそれぞれの封書の横に同じような大きさの小さな箱を置く。
イライザは優雅な手つきで片方の封筒を摘み上げ――その封を閉じるシーリングに刻み込まれる家紋を確認し、驚愕の表情で口元を覆った。
「……っこれは」
「……はい、そちらはステュアート公爵家からでございます。そして」
執事の言葉を聞き終える前に、イライザはもう一通を掴み取り、同じように確認する。
「ハノーヴァー……公爵家」
「はい」
執事は嬉しげに相槌を打った。
「――どちらも、エメライン宛なのね……こちらは?」と、イライザはそれぞれの封書の横に置かれた箱を指し示す。
「贈り物のようですね」
と、執事は笑みを見せた。
「こちら、たった今届きました。いかがいたしましょうか」と執事が尋ねると、イライザは
「そうね……エメラインには、わたくしから伝えましょう。こちらは預かるわ」と伝えた。
「畏まりました。喜ばしいお話だと良いのですが」
執事の足音が遠ざかると、イライザは急いだ様子で封を開け文面に目を走らせた。
読み進めていくほど苛立っているように見受けられる。
そしてもう一通も手に取り中身を確認すると、見る間に憤怒ヘと表情を変化させた。
「何なの、これは」
イライザは声に憤りの思いを乗せて呟いた。
それからイライザは二つの封書を破こうとしたのだが――手を止め、暫し思案する。
思い直したのか、破こうと力を込めていた手を解き、二つの封書と贈り物らしき箱を引き出しに大切そうに仕舞った。
✴︎
コポコポと、丸みを帯びたポットから茶がゆっくりとカップに注がれる。
整えられた茶器は二つ。
そしてそのすぐ側に、茶を満たされたばかりのカップを優雅につまみ上げるクリフォードと、だらしなくソファーにもたれながら茶器を眺めているランドルフがいた。
茶の準備を終え、侍従が静かにランドルフの部屋から退出していくと、ソファーにだらりと身を預けた姿勢のまま、ランドルフが呟いた。
「エメライン嬢に手紙を送ったのだが、なしのつぶてなんだよなぁ」
「僕もだ」
「は? 『僕もだ』って何だよ!」とランドルフはソファーから立ち上がる。
そんなランドルフをチラリと見ながら、「僕も彼女を気に入ったんだ」と、クリフォードは平然とした様子でお茶を啜った。
「ふう、公爵家のお茶は美味しいね」
「……その茶はレベッカから贈られたものだ。お前んちにも同じものがあるだろ」
と、ランドルフは怪訝な顔をし、再びドスンと音を立ててソファーに身体を沈めた。
「お前にはレベッカがいるだろ」
「何を言う。レベッカはただの友人だ」
クリフォードは不思議な顔をしてランドルフに答える。
ランドルフが奇妙な表情をして自身を見ているのを、クリフォードは気づいていないようだ。
ランドルフは憮然とした声色で
「……実は、贈り物もしている」と呟いた。
「奇遇だな。僕もだ」
「また『僕もだ』ってマジかよ」
少しの沈黙の後、二人は同時に溜息を吐いた。
「届いていないと言うことはないと思うのだが」
「そうだよね」
「あの妹君ならともかく、エメライン嬢は礼状なり返信なりすると思うんだよな」
「そう、あの妹君ならともかくね」
二人は先日の夜会の後、すぐにエメラインへ手紙とプレゼントを贈った。夜会での出来事をきっかけに親交を深めていこうと言う魂胆だった。
クリフォードに至っては、エメラインのスイーツタイムを絶ってしまったという思いもあり、お詫びという側面もあると文面に付け加えた。
しかしそれから一週間経っても、更に時が経っても、何一つリアクションがなかったのだ。
二人はお互いが同じ行動をしていたことに微妙な感情を抱いたが、どちらにも返信がないと言うことを知り、小さく安堵していた。
だが、同時に状況がおかしいことも改めて感じたのだが。
「そこでだ。せっかくだから、誘いに乗ってみようと思う」
「え?」
ランドルフは、呆けて自身を見ているクリフォードに更に言い放った。
「行くんだよスタンスフィールド子爵家に。『いつでもいらして』と言っていたんだから、先ぶれは出さずにね」




