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日付を超えてしまった…すみません
ランドルフは目の前で楽しげに踊る四人を眺めながら、先日の夜会での出来事を思い出していた。
(あいつ、あんな真剣な顔で嫌がってたじゃないか)
両陛下とイライアスへの挨拶後、ダンスフロアに戻ると彼らはあっという間に令息や令嬢を引き寄せた。
ランドルフ自身やクリフォードへ近づいてくる令嬢もさることながら、レベッカに群がる令息の人数には驚かされた。
エメラインにもダンスの誘いなどあったが、その比ではない。
レベッカは令息たちから人気だ。ダンフォード侯爵家はレベッカの兄が跡目を継ぐことは確定事項なので、レベッカと婚姻を結ぶことで養子に入り跡を継ぐということはないのだが、侯爵家と縁付きたいと考える者は多い。
また、あまり社交界に顔を見せない割にレベッカは人脈が広く、権力者たちからも親しみを持って接せられていることで知られている。特に親しいとされているランドルフやクリフォードにしたって公爵令息であるし、王太子イライアスとも懇意にしている。時折イライアスの婚約者候補にという話も出るくらいだ。
それに、何よりレベッカは愛らしさを湛えた美貌の令嬢であるのだ。エメラインが儚さを纏った麗人のイメージである一方、レベッカは優美さと可憐さを併せ持つ佳人であった。
レベッカは後々貴族に嫁ぐことになることを見越し、高位貴族の夫人になるための教育を施されている。
つい先日までは、ランドルフかクリフォードのいずれかに嫁ぎ、公爵夫人となるのではないかと目されていた。
そう、つい先日までは。
ランドルフは、クリフォードがレベッカを選ぶだろうと思っていた。レベッカはそれを受けるだろうし、ダンフォード侯爵も愛娘がハノーヴァー公爵夫人となることを手放しで喜ぶだろう。
そう思っていたのに。
夜会で令息たちに取り囲まれダンスの申し込みを受けるレベッカを、クリフォードは自分の方に引き令息たちに向かって言った。
「君たち、本日のレベッカ嬢のパートナーは私だ。勝手なことはしないで頂きたい」
その場が急速に冷え、興が削がれた令息たちが不満げな様子で離れて行く。
それでも表情の険が取れないクリフォードはあからさまに不機嫌な様子であった。
ランドルフはクリフォードのそんな顔はついぞ見たことがなかった。何を考えているのか微妙に読めない微笑みを湛えた優男というのがランドルフのクリフォードに対するイメージだったので、少なからず驚愕したことを思い出す。
「あんなあからさまだったっていうのに。あいつ、自分でわかっていないのか?」
その時、ダンフォード家の執事が侯爵とレベッカの側に寄り耳打ちをした。
「すまない。ちょっと席を外すが、君たちは練習に励んでいてくれたまえ」
侯爵が声をかけると、共に部屋から出ようとしているレベッカの表情が曇っていることに気づきつつ、ランドルフとクリフォードは了承の意を表した。
クリフォードが「何かあったのだろうか」と言いながら座っているランドルフに近づき、テーブルの菓子を一つ摘んだ。
「さあ? 来客だろう」
「それにしては、様子がおかしかったが……」
ランドルフの隣に腰掛けると、クリフォードは少し冷めた紅茶をぐいと飲み干した。
その横顔を眺めながら、ランドルフは声をかける。
「なあ、聞きたかったんだが、お前レベッカのことは本当に友達としか思っていないのか」
「なんだ藪から棒に」
「いや、もしそうなら――俺がレベッカ貰っちゃおうかな」
「は?」
にや、とランドルフは笑みを浮かべてクリフォードを見据えた。
「え、エメライン嬢は――」
「あれを見てみろよ」
と、ランドルフは未だ楽しそうに踊るひと組の男女を顎で示した。
エメラインは柔らかい微笑みをイライアスに向け続けている。また、イライアスも普段の無愛想な様子は鳴りを潜め、口元に笑みさえ浮かべているように見える。エメラインが少しステップを踏み損ね、顔を見合わせて笑っているようだ。
クリフォードはその光景をぼんやりと見つめた。
「だから、お前がいらないなら俺がレベッカを」
「何言ってるんだよ」
クリフォードは少し苛立ったような顔をランドルフに向けた。
その時、急に部屋の外が騒がしくなった。
言い争い始めていたランドルフとクリフォード、そしてダンス中のイライアスとエメラインも動きを止め、皆一斉に乱雑な音が近づいてくる扉に視線を向けた。
そして、突然扉が開かれ――桃色のドレスを纏った令嬢が飛び込んできた。
「お姉さま! こちらにいらっしゃいましたのね!」




