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 王太子イライアスは少々うんざりな様子で床を見つめていた。

 薄く眉間に皺を寄せ、挨拶を待つ人の列がまだ先の方まで伸びているのを憂鬱に思ってもいたのだろう。


 見知った三人に一人加わった一行が、声がけにより下げていた頭を上げる。

 四人が顔を上げたのをイライアスは目の端で捉え、自身も目線を置いていた床からゆっくりと視線を上げた。


 そして彼らを、正確にはランドルフの隣にいるエメラインの姿を捉えた。その刹那――


 しかめ面のようにも見えていた表情の、その険が取れた。

 張り詰めた気配が一気に解け、力が抜けたような表情をしている。


 更に、無意識に椅子から腰を浮かせた。

 突然のその様子に驚いたのか、両陛下は瞠目しつつ左右からイライアスの様子を見ている。


 自身への注目に気づいたのか、イライアスはばつの悪い顔を見せ椅子に座り直した。


 だが、視線はエメラインを捉えたまま動かそうとしない。

 エメラインの隣のランドルフも、またクリフォードやレベッカも恐らく見えていない、認識していないようにも感じられた。



 一方でエメラインも、気の抜けたような表情でイライアスの姿を捉えていた。

 隣でランドルフが恭しく口上を述べたのだが、続くエメラインはイライアスを見つめたまま挨拶を忘れてしまっている。


 レベッカが焦ったようにも感じられる声色で「……エメライン嬢?」と声をかけると、エメラインはハッとして改めて身を低くした。


「スタンスフィールド子爵が長女、エメラインでございます。殿下、この度は誠におめでとうございます」


 イライアスは暫しの沈黙の後、ありがとう、と一言述べた後、


「……このような女性が、今まで何処かに隠されていたとは」と口元に手をやり、無意識に呟いた。


 イライアスの程近くにいた両陛下はその言葉が聞こえていたのであろう。それぞれの目がキラリと輝いた。

 どちらからともなく視線を合わせて嬉しそうにしており、イライアスの様子を思惑ありげに見つめている。


 クリフォードとレベッカも祝いの言葉を贈ると、徐に王妃陛下が二人に声をかけた。


「クリフォード卿は、レベッカ嬢とご婚約されたのだったかしら?」


 レベッカはちらりとクリフォードと目を合わせ、言葉を促した。


「いえ、本日は友人同士にて御前に参じております」


 クリフォードが簡素な言葉で答えると、王妃陛下は「そうなのですね」と笑みを深めた。


「では、そちらの――」

 と、エメラインを指し示す。


「エメライン・スタンスフィールド子爵令嬢も、まだどなたともご婚約はされていないということかしら」


 王妃陛下はエメラインを見、それからランドルフに視線を移した。


 ランドルフは一瞬動揺を見せ、眉間に若干の皺を寄せた。


「左様でございます」とエメラインが小さく返答をすると、王妃陛下はその答えに満足し、益々目の輝きを強めた。

 その猛禽類じみた目の輝きに、ランドルフとクリフォードは不安を増大させる。




 だが、その王妃陛下の様子以前に、既に二人の心は押しつぶされそうになっていた。


 イライアスは周囲の音が耳に入っていないかのように、エメラインを見つめ続けている。


 そしてエメラインも――イライアスを一直線に見つめ、視線を外していない。



 ランドルフとクリフォードは、何度も湧き上がる気持ちを否定した。

 だが実際は否定しようもない。

 エメラインのその様子は、恋する乙女そのもの。

 自分たちがエメラインに対して最も望んでいた“恋に落ちた令嬢の瞳”は今、イライアスただ一人に向けられている。



 彼らはこの日、目の前で人が恋に堕ちる瞬間を見たのだ。


 片方は、自分達の思い人であったというのに。


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