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うっかり寝落ちという名のうたた寝をしてしまいました……遅くなりすみません


(そろそろ、準備が終わった頃だろうか)


 執務室に佇むダンフォード侯爵は懐中時計を手に取り、時間を確認した。


 エメライン嬢は到着してすぐ侍女たちに連れて行かれたと聞いている。


(まあ、僕が指示したんだけどね)


 ダンフォード侯爵は微笑んだ。


 考える隙を与えて下手に遠慮などをされるより、早々に夜会の準備を進めてしまった方が良いだろうとの判断だった。

 実際、エメラインは侍女たちの手腕によってなすがまま、宝飾品からドレスに至るまでのあれこれを黙って享受することになったのだから間違ってはいない。

 

 侯爵はスタンスフィールド子爵に、エメラインの来訪の約束を半ば無理やり取り付けた後、大至急今日のための準備を整えた。


 配下の織物関連に携わる者に最高級の絹織物を依頼、また宝飾品についても希少なものを揃えるよう命じ急ぎ持参させた。それらをレベッカが全て細かく確認、スタンスフィールド家に多少の縁があるという人気のドレスメーカー“ロレッタ”のマダム・ロレッタと相談の上、一つ一つ選定したのだ。

 マダム・ロレッタは希少な素材を扱う機会に恵まれ、大至急という無理難題への謝礼もありホクホクだったという。

 それらを身につけたエメラインとレベッカが、夜会で広告塔となってくれれば巡り巡って潤いになるのだから、多少の金銭的負担など大した問題ではない。


 また、個人的な感情としてエメライン嬢を労いたいという気持ちもあるのだが、と侯爵は目元を緩める。

 あの、痩せ窶れた印象の美しい令嬢は、自分たちが吟味を重ねて用意した物たちによって、どのような変貌を遂げているだろうか。




 その時、軽快なノックの音が部屋に響いた。


「お父様、少し宜しいですか? エメライン様がお父様にご挨拶をと仰ってますわ」


 侯爵は微笑み、声のする方へ「お入り」と告げる。


 扉が開き、レベッカに促されると、エメラインはダンフォード侯爵の方へ足を進めた。


「ダンフォード卿、此度はわたくしのためにお心をお尽くしいただき、深く御礼申し上げます」


 エメラインは裾を整えたのち、ゆるやかに膝を折り、上体を控えめに伏せる。

 その美しい所作に、侯爵はほう、と感嘆の小さな溜息を吐いた。


 エメラインは身体を起こすと、眉を下げ戸惑った様子で言葉を足した。


「このような立派な装いをご準備頂き、大変恐縮でございます……」

「やだなあ。君はそんなこと気にしないで良いんだよ。本当に律儀な方だ」


 ふと、侯爵はカーテシーのためにドレスを摘んでいたエメラインの手や腕、鎖骨の浮き具合などに視線を投げる。



(――華奢だな)



 侯爵は、改めてエメラインの体の線の細さに痛ましさを覚える。食事を十分に摂れているのか不安になる儚さなのである。


(触れたら壊れそうな程細い。スタンスフィールド子爵は、子女を使い潰すつもりなのか?)


 苛立ちが顔に出ないよう、侯爵は誤魔化しの笑みを浮かべた。


 月に一度の侯爵家への訪問では、父親が空気かと思う程に完璧な受け答えを披露する有能な令嬢が、化粧や飾り付けで美しく整えられているとはいえ不遇な様子でそこにいる。


 ただただ、不憫である――そう、侯爵は思った。


 レベッカのいう通り、そして今エメラインの後に控えている令息たちの思惑通り、当家へ迎え入れるのは理にかなっているのではないか。



 ダンフォード侯爵は、さて、親元を離れているこの機会、どのように利用すべきか――と考えを巡らせていた。


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