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執事によって扉が開かれると、その向こうには貴公子二人――ランドルフとクリフォードが佇んでいた。
二人とも髪を後方に撫で付け、フロックコートに身を包んでいる。
見目麗しい二人が並ぶ光景に、室内にいた侍女たちから感嘆の溜息が漏れた。
二人は扉の手前から室内、そしてレベッカとエメラインに目を向けると、唖然とした表情を見せた。
ほんのりと顔を紅潮させ瞠目したかと思うと、その後何か不具合でもあったかのように青ざめる。
そしてランドルフは自身の目元に、クリフォードは口元に、それぞれ手を置き言葉を放った。
「……レベッカ」
「はい、お待ちしておりました」
「いや、君んとこの侍女たち、ちょっと張り切りすぎじゃないかな?」
「はい?」
レベッカは小首を傾げ、怪訝な表情をしている。
ランドルフとクリフォードを改めて見ると、二人はヒソヒソと密談をしているようだ。
「これ、やばくないか?」
「確かに。令息たちがいる場所に放っちゃいけないレベルかも知れない」
「寧ろ、出席をなかったことにしたいよな」
「何をコソコソされていますの? お入りになってくださいませ」
不審げな声を出し、レベッカは二人を手招いた。
ランドルフとクリフォードは渋々といった様相で扉から部屋へ一歩足を踏み入れた。
「ご無沙汰しております。先日は大変なご無礼を致しました」
近づいたランドルフとクリフォードへ交互に視線を送り、エメラインは申し訳なさげに膝を折り身体を沈めた。
膝を折るエメラインを、ランドルフもクリフォードもほう、と溜息混じりに言葉もなく見下ろした。
その、二人の惚けた様子を見て、レベッカは軽く咳払いを送る。
先に我に帰ったのはクリフォードだった。
「よく……似合ってる」
「あっ、俺が先に言おうと思ってたのに」
「ちょっとお二人とも、エメライン様はお二人に謝罪されてましてよ」
レベッカが注意を促すが、二人とも『最早その話はどうでも良い』といった雰囲気である。
ランドルフがエメラインから目を離せないでいる一方で、ランドルフはエメラインに並ぶレベッカを盗み見た。
レベッカもいつもの眼鏡を外し、エメラインと意匠の近い豪奢なドレスに身を包んでいる。丹念に整えられた髪はハーフアップになっており、細かく規則的に並べられたメレパールの髪飾りでまとめられている。
首元のパールのチョーカーと耳飾りはランドルフと負担したお礼としての贈り物だが、今日の装いの華やかさに品の良さをもたらし、レベッカを益々美しく形作っている。
エメラインに負けず劣らず麗しい、とランドルフは眩しそうに目を細めた。
それにしても。手をかけられればここまで美しくなるのか、とクリフォードはエメラインを見て思う。
元々、素の状態でも素朴ながらに愛らしさを感じるのだ。重ねていくように技巧を施せば、このような精霊の如き美しさとなるのも至極当然なことなのだろう。
今日の夜会のエスコート役を逃したことを改めて悔やむクリフォードである。
「そういえば、こちらでは菓子を頂いたのか? 侯爵家のパティシエの腕も素晴らしいぞ」
「まあ、ステュアート卿。そうなんですの?」
「後ほどいただいてみるといい。――私のことはランドルフと呼んでくれないか」
「あっ、私のこともクリフォードと」
「――ランドルフ様、クリフォード様。本当にありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。わたくしのこともエメラインとお呼びくださいませ」
ランドルフと、そしてクリフォードの心を奪われたかのような表情を見、レベッカは微笑ましく眺めながらも、胸の奥の小さな痛みを感じた。その痛みをそっといなしながら、何事もなかったかのように「エメライン様、夜会でお菓子をいただけなかったら、我が家で改めてお茶でも致しましょう」とエメラインに伝えた。
「まあ、それはとても楽しみですわ」と、エメラインはコロコロと笑う。
それがまた、一瞬にして魅了される華やかさなのだ。
――君達の想い人を権力を使って奪い取るなど、この私がするはずもなかろう?
そう言っていた呆れたような笑みの表情を、クリフォードは思い出す。
だが、この美しさを見て王太子は無関心でいられるだろうか。
クリフォードは、その芽生えた黒い靄をどうしても打ち消すことができず、胸の片隅で持て余していた。




