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わぁ、ギリギリ(すみません…)
「ピンクの、ドレス……」
ドレスの美しさやその圧倒的な存在感よりも何よりも、エメラインがまず口にしたのはドレスの色のことだった。
「左様でございますよぉ。この青みがかったアイスピンク、エメライン様に大変お似合いになると思いますぅ」
マダム・ロレッタが隣でエメラインを嬉しそうに見上げている。
エメラインが呆然と眺めていると、背後から涼やかな声が聞こえてきた。
「そして、わたくしのドレスもピンクですのよ」
エメラインが振り返ると、腰に手を当てたレベッカが微笑んでおり、身につけているサーモンピンクのドレスを見せつけるように胸を張った。
レベッカの温かみのある色合いのブロンドヘアーが映えるであろうドレスの色合いに、エメラインは目を瞬かせた。とても良く似合っている。
よく見ると二人のドレスは全く同じではないにせよ、デザインを寄せている雰囲気が感じられた。大まかな意匠は変わらないのだが、目立つ刺繍の位置が、エメラインは胸元に集中している一方でレベッカは裾などの末端に集められている。
同じドレスメーカーで、敢えてそのように作らせたのだろうと感じられる作りであった。
「レベッカ様のドレスもピンクなのですね……」
「――敢えて、ですわよ?」
と、レベッカは不敵に微笑んだ。
(桃色令嬢に格の違いを見せて差し上げないと)
レベッカはキャスリンについて幾つかの噂を聞いていた。
ピンク色を大層好んでいるとのことだが、他の令嬢、特に自分と同じ子爵令嬢や男爵令嬢がピンク色のドレスを身につけて現れると、キャスリンはあからさまな嫌がらせをするというのだ。
レベッカが懇意にしている令嬢からも直接不快な目に遭った話を聞いているので、根も葉もないただの噂ではない。なお、上級貴族など目上の人間には行わないというので人を選んでいるのだろう。
(この程度、意趣返しとも言えませんわ)
レベッカは笑みを深めた。
「そしてこちらがエメライン様の本日の装飾品ですわ」
側に控えていた侍女がビロードでできたボックスを丁寧に開くと、そこには首飾りと揃いのイヤリングが並んでいた。
いずれも大粒のペアシェイプカットの石にぐるりとメレダイヤが囲むデザインで、キラキラと光を受けて眩しいくらいに輝いている。
「そんな……そこまでして頂くわけには」
「大丈夫ですわ。こちら、ランドルフ卿とクリフォード卿からの贈り物でしてよ」
「えっ、益々いただけませんわ……」
「良いのですわ。わたくしも頂きましたし。わたくしの方はお駄賃としていただいたのですが」
「お、お駄賃?」
レベッカはふふと笑って説明をする。
「最初お二人はエメライン様のドレスをプレゼントする予定でしたのよ。ですが、どちらがプレゼントするかで大変揉めましたの。なので、宝飾品を分担して差し上げてはいかがとわたくしが提案したのですわ」
そう言ってレベッカは自身の装飾品を触って見せた。こちらは大粒のパールのチョーカーと同じくパールのイヤリングだった。ドレスの色味が華やかな印象なので、装飾品は真珠で上品さをプラスしたようだ。
「よく存じ上げない方からドレスを頂くって、ちょっと気が引けるというか……困ると思いますのよ。公子からの贈り物なら着用しない訳にも行かないでしょうし。宝飾品でしたらまだマシだと思いますの。面積が少ないですし」
レベッカはあくまでも身につけた時の心理的な負担の話をしているようだ。金額の話であればどちらも負担であることに変わりはないのだが。
「お二人は、エメライン様へ先日送ったプレゼントがご本人に届かなかったことを気に病んでおいでなのですわ。本日身につけられれば喜ばれると思いますわよ」
「そうでしょうか……」
「お会いした時にでも、お話しされれば良いですわ」
「――そう言えば、お二人にお会いするのはいつになるのでしょうか」
「わたくしたちの準備ができた頃にお迎えに来てくださいますわ。本日はエスコートもお願いしてますの。――エメライン様はランドルフ卿にエスコートをお願いしていますが、よろしいですか?」
「わ、わたくしで良ければ……」
レベッカは、エメラインのエスコート権について争いがあったことを言うべきかどうか思案する。
「レベッカ様? 何を笑っておいでなのです?」
含み笑いをしたレベッカをエメラインが不思議そうな表情で見つめていた。
ドレスと装飾品が整い、マダム・ロレッタは侯爵邸から退出した。去り際、エメラインに名残惜しそうに『また、このような機会が得られますように祈っておりますぅ』と伝え、エメラインも同じ気持ちを伝えた。この夢のような時間がまたあるかどうか、エメラインには想像もつかなかったのだが。
それから二人は侍女たちに髪を巻き結い上げられ、美しく化粧が施される。
そして、レベッカとエメラインがようやく一息ついた頃に、執事がランドルフとクリフォードが到着した旨を知らせにやって来た。




