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大変お待たせしました!

実は風邪を引いてしまいました……数日は睡眠第一に過ごしたいと思いますので、暫くは更新時間が一定ではなくなると思います。ご容赦ください。

皆様も季節の変わり目、どうかご自愛くださいませ。

 エメラインが窓の外を興味深げに眺めているのを見て、レベッカは(まるで子供のよう)とクスリと笑った。

 すると、その様子に気づいたのか、


「……も、申し訳ありません」


 バツが悪そうな表情をし、エメラインが焦ったように謝罪する。


「いいえ。何か、興味深いものでも?」


 エメラインは眉を八の字に下げ、返答を返した。


「いえ……この付近はこのような情景だったのかと――わたくし、自分自身の要件で家から離れたのは、覚えている限りでは初めてなのです」


 昼間の外出は父である子爵の業務への同行くらいなのだとエメラインは笑う。そして移動の際には外を見る余裕などなく、要件に関する資料を読んでいることが殆どであったと付け加える。


「このように、何も心急く事なく、ただ流れる風景を楽しむだなんて……夢かも知れないと思いました」


 そう呟くように言葉を発した後、エメラインはハッとしてレベッカの方へ体を向けた。


「失礼しました。お嬢様に聞かせるお話ではありませんでした」

「いいえ」


 レベッカは痛ましく思う気持ちを抑えて、首を左右に振った。


「どうぞ、ごゆっくりなさって。――エメライン様、わたくしのことはレベッカと呼んでくださいな。本日はゆっくりお話ができるのを楽しみにしておりましたのよ」

「嬉しいお言葉をありがとうございます。レベッカ様、わたくしもお会いするのを本当に楽しみにしておりました。レベッカ様を楽しませる程のお話ができるか不安ではあるのですが」


 ああ、とレベッカは何かを思い出したような表情を見せた。


「父が『話し相手を』をお伝えしたそうですね。そちら、大きく間違ってはいないのですが……実は本筋は少し異なりますの」


 軽く咳払いをし、レベッカはエメラインに微笑んだ。


「エメライン様、ランドルフ・ステュアート卿とクリフォード・ハノーヴァー卿のことは覚えておいでかしら」

「は、はい! お二人には、以前大変失礼なことをしてしまって……」

「その辺りのお話は伺っていますわ。わたくしは二人の友人なんですの」

「まあ! そうだったのですか」

「ええ。お二人が、エメライン様とお話がしたいそうで――その、お嫌ではないかしら?」

「いいえ! ですが、その、わたくしなどと話だなんて」


 エメラインは瞳を伏せて俯いた。


「がっかり、させてしまいそうですわ。父によく言われるのです。小賢しい女性は好かれないのだから、自分が人から好かれる人間だと勘違いしてはいけないと」

「まあ」


 レベッカは憤りを隠したが、うっかり片眉を上げてしまっている。


「お二人は、エメライン様を気に入っておいでですわ。お友達候補だと思って、仲良くしてあげてくださいな」

「公子様方にそんな、恐れ多いですわ……」


(奥ゆかしい方。お二人がお気に召した理由もわかるわ)


 と、レベッカはエメラインに微笑む。

 エメラインを見ていると、生まれたての無垢な子鹿を見守っているかのような――庇護欲が湧いてくるのだ。


(恋のライバルではあるのだけど)


 レベッカはそう思い、胸の奥をちくりと痛める。


(守ってあげたい気持ちにもなる、不思議な方)



 また、レベッカが“守りたい”と思う理由はもう一つあった。


「エメライン様、一つ伺いたい事があるのです」

「はい、何でしょうか」


 エメラインは窓の外からレベッカに視線を戻す。


「ウェルティ夫人のことを、覚えておいででしょうか?」

「ウェルティ、夫人……」


 エメラインは脳内にその名前を巡らす。


 そして、一つの思い出が蘇る。


――エメライン様、素晴らしいですわ。これはご両親に褒めて頂かないと!


 すぐに会えなくなってしまった、あの女性。

 確か、ウェルティと名乗っていた気がする。

 もう遥か昔のことで顔貌を隅々とは覚えていないが、唇に弧を描いている優しげな印象だけは記憶にあった。


「――覚えて、いますわ。家庭教師の」

「そうですわ。ウェルティ夫人は、つい先日までわたくしの語学の教師だったのです」


 エメラインは口元に手を当て、瞠目している。


「まあ……なんという偶然でしょう」

「先生は、エメライン様の教師契約を解除になった後、当家にいらっしゃいました。一通り経歴は調べますので、経緯は存じておりますわ」


 エメラインを見ると、眉を八の字にし、目元には小さな光が見られた。

 レベッカは辛いことを思い出させてしまっただろうか、と思ったが、話を続けた。


「お名前などは伏せていらっしゃいましたが『守ってあげられなかった令嬢がいる』と仰っていた事がありました。『もし、自分が状況を察して言葉を違えていなければ、その令嬢に楽しく過ごす時間を少しは差し上げられたかも知れない』と」


 エメラインの目元の光が、頬を滑り落ちた。


「社交界で、貴女が妹君を邪険にしているような噂が流れた時も、先生は『そのような方ではないと思います』と。わたくしに『他人の気持ちを慮る令嬢でした』と仰ってました」


 涙の筋をいくつか作り始めたエメラインに、レベッカは改めて笑顔を見せた。


「他にもいらっしゃるの。ルーサム夫人は覚えていらっしゃる? 夫人は、わたくしの友人の姉君ですのよ。彼女も仰ってました。『エメライン嬢は美しく、聡明で、心も清廉な方ですわ』と。『とても優秀で、もうお教えすることは何一つない』とも」



 エメラインは、教師たちが自身に別れを告げた日を思い出した。ルーサム夫人は、エメラインに『貴方様には幸せな人生を歩んで頂きたい。どうか正しい道が示されますように。それがこの場にいる皆の総意です』と目に涙を浮かべながら伝えた、その人だった。


「そして、皆様仰ってました『エメライン嬢は()()から逃れるべきだ』と――」


 レベッカの強い視線と言葉に、エメラインは俯いていた顔を上げる。


「エメライン様、()()()が貴方を守ります。貴方は幸せになるべきです」

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