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 敷地内に豪奢な馬車が到着したのを窓から眺めていたキャスリンは、表情を険しくした。


「……気に入らないわ。どうしてお姉さまばっかり」


 馬車に向かって呟くと、唇を噛み締めた。




 父であるスタンスフィールド子爵より王太子の成人祝いにエメラインが参加すると聞いて、欠席させると聞いていたキャスリンは安堵した。いつもの引き立て役がいなくなると思っていたからだ。

 会場に到着した時の、自分とエメラインを比較するかのような周囲の目は、キャスリンの自尊心をいつも十分に満たしてくれた。

 その後壁の花になっている姉の方を促し、ダンスの相手に悪口を吹き込むのも、それを間に受けて『そんな目に遭っているのに、貴方は健気な方だ』などと言われるのも、そして飲食が並ぶエリアから離れようとしない姉に目を向け『姉が浅ましくて恥ずかしいですわ』などと頬を赤らめ俯くのも、キャスリンは楽しくて仕方がなかった。


 ()()が無い、王宮の夜会なんて。


 楽しさが半減じゃない。良かったわ――そう、キャスリンは考えていた。


 父より、当日エメラインはダンフォード侯爵邸に招かれており、そちらから現地へ向かうと聞くまでは。


「ダンフォード侯爵のご令嬢が、仕事など手応えのある話ができる相手としてエメラインを希望しておられるのだよ。夜会は私とイライザの三人で向かう」


(何よ、それ)


 キャスリンは、父の説明に憮然とした表情で返す。


「おお、そんな顔をしないでおくれ。ビジネスの話など、キャスリンには楽しくも何とも無いだろう?」

「それはそうだけど。……何だかずるいわ」


 その後エメラインは侯爵邸で夜会の準備までしてもらえるという。


 その話を思い出し、キャスリンは顔を顰めた。

 

 また、当日ランドルフにエスコートして欲しいと、その旨を(したた)めた手紙を届けさせたのだが、『パートナーは既にいるので』とその願いはにべもなく断られた。


 この夜会はキャスリンにとってつまらない出来事ばかり起こるようで、日程が近づくにつれ苛立ちが色濃くなるのだった。




 馬車の扉が開き、従者の手を借りて一人の女性が出てきた。


 暖かな色味が混ざったブロンドの髪をシンプルにまとめ、白い肌にはちんまりとした眼鏡が乗っている。まだ若いその女を見、キャスリンは迎えに訪れた侍女だろうかと思った。まるでエメラインのような質素な出立ちに見えたからだ。


 だが、見ればその後迎えに出た父親、そして母親も、その女に平身低頭している。父親は、権力に弱く阿諛追従が過ぎる人物である。ということは――あれが、件の令嬢か。


「は――」


 キャスリンは思わず笑い声を出した。口元を手で押さえても、漏れ出る笑い声を抑えることができなかった。


――なあんだ


 くつくつと笑いながら、キャスリンは改めて侯爵令嬢と思われる女を見た。その目は蔑みの色を濃く宿している。


「侯爵令嬢というからどれ程かと思ったけど、全然大したことないじゃない」


 そしてふと、部屋の片隅にある鏡に映る自らの姿を見て微笑んだ。

 自分の方が、よっぽど高位貴族の令嬢に見える。そう思ったのだ。


「心配するまでもなかったわ。侯爵家で夜会の準備をしてくれるそうだけど、きっといつものお姉さまと変わらないわ」




 そしてキャスリンは、小走りに令嬢の方へ進んでいく姉の姿を見て、

(気が合いそうじゃない。良かったわねお姉さま)と嘲るような目で見送った。


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