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「しかし、そのような麗しい女性が噂にもならんとはどう言うことだろうか。私は夜会には滅多に顔を出さないが、話に上がるくらいはありそうなのだが」


 イライアスは若干訝しげに考える様子を見せる。


 ああ、それは、とレベッカが声を上げた。


「夜会に出席はするのですが、いつも目立たないようにされているようですわ。ドレスも……非常に簡素なもののようで。それに」


 レベッカは呼吸を整えて続ける。


「わたくしも噂でしか聞いていないのですが、エメライン嬢の妹君への対応が大層手厳しいと――()()()()()()、自ら様々な方にお話しされているようですわ。ですから、その話を間に受けた人は寄りつかないのかも知れません」

「あの妹、俺にも『姉から男性と関わらないよう監視されている』とか言ってたな」

「しかしエメライン嬢、僕と話しているときは妹の方を気にしていて、まるで彼女の方が監視されているかのようだったんだが」


 また、ランドルフとクリフォードが先日スタンスフィールド家を訪れた時の話を始めると、レベッカもイライアスも明らかに怪訝な表情を見せた。


「……何だそれは」

「贈り物を着服するだなんて……」


 ランドルフはイライアスに向かって告げる。


「しかもあの父親、君の誕生日の祝賀会にエメライン嬢を出席させないとか言ってたんだぜ」

「えっ、それはあり得ませんわ。未だ決定されていない王太子妃候補選定の意味もあることは、ご存知でしょうに」

「年頃の令嬢がいる家は必ず出席させるよう改めて通達させよう。私の婚約者を探す名目となっているから、念押ししても不自然ではあるまい」

「そうしてくれ――目をつけるなよ?」


 ランドルフがイライアスを睨みつけつつ言うと、イライアスはフンと鼻を鳴らした。


「君達の想い人を権力を使って奪い取るなど、この私がするはずもなかろう」


 イライアスは『ばかにするな』とでも言いたいのか、呆れたような笑みを浮かべる。


「私の婚約者など、両陛下が家柄的にも気に入った令嬢を当てがうであろう。自ら余計な事はしないつもりだ」


 そのような考えの為、イライアスは夜会にも滅多に参加しない。好きでもない夜会に、わざわざ行く必要もないとの考えだ。

 重臣達にはその意識のなさを咎められているようだが。


「それでレベッカ嬢、今日呼んだのは他でもない。協力して欲しいからなんだ」

「わたくしにできることでしたら何なりと」


 子爵家の()()状況から考えて、出席するにしてもエメラインに対しての万全な準備はされないだろう。

 それを何とかできないだろうか、とランドルフは伝える。

 例えば一度侯爵家に呼び、そこで準備し一緒に向かうなどできればいいのだが、と。


「では、父に『昔からのよしみで当日は当家でお世話したい』とゴリ押ししてもらいますわ」

「流石に侯爵家から言われれば、容易に否とは言えなさそうだね」

「あの狸親父なら言いかねないけどな」

「父にはお断りされても引かないよう伝えておきますわ。私が強く会いたがっていると付け加えておきましょう」

「妹も付いてきそうじゃない?」

「今後のお仕事について語り合いたいとでもお伝えしますわ。妹君にはその手のお話は難しいでしょうから」


 邪悪に微笑んだレベッカの言葉に、ランドルフは満足げに頷いた。


「本当はそのまま侯爵家の養女にでもなって欲しいんだがなぁ」


 というクリフォードの言葉に、レベッカは少し思案する。


「お二人のいずれかが婚約するのですよね――あくまでも予定として」

「そうだ、二人のどちらかが」

「そう、どちらかが」


 二人は見合って牽制し合う。

 イライアスはその様子を見て、困ったように笑う。


「それでしたら、侯爵家である当家の養女にと言うのはアリですわね。父は喜ぶかもしれません。子爵はご令嬢を伴って事業の話で当家にいらっしゃるのですが、殆どご令嬢ばかり話をして、同行されている子爵は完全に置物だそうですわ。ご令嬢――エメライン嬢であろうと思いますが、過去の業績なども数値までしっかり把握しておいでのようで、『兄の嫁に来てくれたら心強いのに』と父が申してましたもの」


 二人はレベッカの言葉にギョッとする。ランドルフは不安そうに恐る恐る尋ねた。


「まさか、婚約の打診などは」

「それはありませんわ。兄は婚約者もおりますし。“婚約者が不在であったら”と言う、架空の話ですわ」


 ランドルフとクリフォードは安堵の吐息をつき、ほっと胸を撫で下ろす。

 だが心配は尽きないのか、ランドルフは「婚約解消の兆候とかはないだろうな」と尋ねた。


「ご安心ください。ございませんわ。大層円満で毎度こちらが当てられるほどなのですわ」


 含み笑いをしたレベッカが、揶揄するような表情でランドルフに告げた。


「お話がまとまるなら父に話してみますわ。当家としてはお二人のいずれかに恩義を感じてもらえるならば……一つ貸しですわよ?」


 しかし、レベッカは思い出したことがあるように少し顔を曇らせて、


「ただ……子爵もご令嬢の婚約などの話になると、いつもはぐらかすようなのです。まさかとは思いますが……婚姻を結ばせるつもりがないのでは、何て申してましたわ。あくまでも父の印象ですけど」

 と不穏な話を追加した。


「それで、殿下の成人祝いの夜会は、どちらが彼女をエスコートされますの?」

「俺が」

「僕が」


 レベッカの問いに、二人は同時に声を上げ、その後睨み合った。


「では、エメライン嬢をエスコートしない方のかたは私のエスコートをしてくださいませ」


 レベッカはそう言うとコテンとくびを傾ける。その様子を見、ふと(可愛い)と思ってしまったクリフォードは、思いを散ずるように頭を振った。



 それから二人は、夜会でエメラインのエスコート権をかけて勝負をするぞと息巻いた。


 その騒がしい声を聞きながら、部屋の端でイライアスが密かにレベッカに声をかける。


「……君はそれでいいのか?」


 イライアスは気遣わしげにこっそりレベッカへ目を向けた。

 それに「問題ありませんわ」と、レベッカはケロッと答える。


 ランドルフはチェス盤をセバスに準備させた。どうやら、勝負はチェスで決めるようだ。


 イライアスはチェス版のつるりとした表面を眺めながら、『さて、どうなることやら』とこの後の状況を案じた。


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