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話を聞きたがるイライアスに、ランドルフは渋々『自分に思い人が出来たのだ』と告げた。
「ああ、それはあれか? 先日の夜会で昆虫のように君の腕にしがみついていたという令嬢のことか?」
イライアスは開口一番ランドルフにそう告げた。
その言葉を聞いたレベッカも、『あっ』と小さく手を上げる。
「そのお話、わたくしも聞き及んでおりますわ。なんでも、青い顔をしたまま振り解けずにいたそうですわね?」
「何で出席もしなかったのに、そんなこと知ってるんだ」
「聞いてもいないのに、夜会でのトピックスを教えてくださる方がいるのですわ」
レベッカは扇を広げ、その内側でニンマリと戯笑しているようだ。
イライアスも同様に碧眼を三日月のように細めている。
「君の好みがそういう女性だったとは知らなんだ」
「なっ…………バッ……ち、違う! 思い人はその姉の方だ!」
イライアスもレベッカも、視線をランドルフに固定したまま『ふふふ』『ふふふ』と意味深な笑いを送っている。
そこにクリフォードが口を挟む。
「その令嬢の姉君が、私とランドルフ二人が恋焦がれている女性で」
「そ、そうなんだ。寝ても覚めてもその令嬢の事ばか――」
「またそんな事を。君たちいい加減にしたまえよ。女性の心を弄ぶなど、いつかしっぺ返しがあるものだぞ」
イライアスの諌めるような声色に、『あー五月蝿い』と二人は同時に耳を塞いだ。
レベッカ、ほほ、と笑い「耳が痛いですわね」と呟いた。
貴族令嬢から“漆黒の貴公子”“白銀の貴公子”と呼ばれ熱い視線を集めているランドルフとクリフォードは、その状況を面白がり、国の貴族令嬢が自分達に愛を捧げる数を競っている。
そのゲームめいた遊びをイライアスは咎めている。今回の件もその延長の話だと思っているのだろう。
ちなみにイライアスは“金剛の貴公子”と呼ばれており、三人が揃う夜会では令嬢たちが尋常ではない興奮状態になる。イライアスは公務を理由に滅多に、と言うより殆ど、夜会には参加しないのだが。
“金剛”はイライアスの堅物な性質を揶揄してもいるとかいないとか噂されるのだが、本当のところはわかっていない。
クリフォードはイライアスを宥めるような声色で口を挟んだ。
「君はいつも真面目すぎるんだよ」
「それに今回は“ゲーム”じゃない。真剣な話だ」
ランドルフは真面目な表情を作る。
その様子を見、イライアスはふむ、と顎に手を置く。
「だが、社交界の華とも言える君たち“漆黒の貴公子”と“白銀の貴公子”両名から恋心を向けられる令嬢か……女性からの僻みは熾烈なものになるだろうな」
イライアスの言葉に、その場で唯一の女性であるレベッカに視線が集まる。
レベッカは確かに、と溜息をついた。
「……仰る通りですわね。それはそれで、お気の毒ですわ。ワインをかけられるかもしれませんし」
「あーたまにいるね。嫉妬に駆られてそんな騒ぎを起こす哀れな令嬢が」
「ほんっとに女は怖いからな! 油断ができない」
ふと三人黙り、言葉を発したランドルフに目を移す。
「君、最近女性に風当たりが強い気がするが、何かあったのか?」
クリフォードは案じる色を宿した表情でランドルフに語りかけた。
「何も無い。なんでもないから気にするな」
ランドルフは目を明後日の方向に向けて、こっちを見るなとクリフォードに向かって手を仰ぐ。
イライアスは瞬時表情を変え、周囲が気づかない程度に気の毒そうな視線をランドルフへ送った。
ランドルフは初めてエメラインを認識した件の夜会で、キャスリンとの会合直前に見ず知らずの女性に襲われそうになったのだが、王家との話し合いの結果その事実は公表しないことになっていた。
話し合いの場にはイライアスも同席している。
「で、どんな女性なんだ?」
と、イライアスが話を戻し、ランドルフとクリフォードに問う。
「地味な超美人で菓子が好き」とランドルフが思い出すように微笑む。
「ざっくりだな」
「だが、表情が豊かで可愛い」
負けじとクリフォードも会話に加わると、ランドルフは『そうそう』と頷く。
「それと弁えていて、媚びないところもいいよな」
「そうそう」
ランドルフとクリフォードが意中の人であるエメラインを褒め称え合う中、レベッカが少し悲しそうにクリフォードを眺めていることにイライアスは気づいたが、心情を察しながらも看過した。
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