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 扉の向こうから再び執事のセバスの声が聞こえ、一同扉に注目した。


「坊っちゃま、殿下がお見えです」

「げっ」

「げっ」

「ちょっと、貴方達。その反応は失礼よ」

「あいつクソ真面目だからなんか言われそうでさぁ」

「そうそう、クソ真面目だから『子爵とキッチリ話をし、その令嬢を救わねば!(キリッ)』とか言いそうだよね」

「確かに仰るような気はしますけど」



「……何の話だ?」



 バリトンの低い声が室内に放たれ、時が止まった。

 三人はゆっくりと、しかし一斉に発信源と思われる扉の方を改めて見、そこにに佇む金髪碧眼の男――王太子イライアスへと視線を移した。

 イライアスは目を細め、セバスのすぐ後ろから室内の三人を睨むように見ている。


「セバス……」

「申し訳ございません。応接室でお待ちくださいと申し上げたのですが」


 ランドルフが咎めると、セバスは悪気が無さそうに肩をすくめる。

 クリフォードは手をひらひらと煽り、セバスに気にしないよう伝えた。


「いや、いい。彼がせっかちな性格なのは皆知っている。セバスは悪くないだろう」

「随分な言われようだな」

「間違ってはいないだろ」


 イライアスは返事の代わりにニヤリと笑みを浮かべた。



 この国の王太子であるイライアス・エッジワースはランドルフやクリフォードと同じ17歳、約一ヶ月後に成人を迎え18歳になる。つまり、ランドルフやクリフォードもじきに成人を迎える。

 色素の淡いブロンドの癖毛を短く刈った碧眼、背はかなり高い。そして鍛え上げられた筋肉が彼を更に大きく見せている。整った顔立ちではあるのだが、厳つい印象の方が強く、また本人の性質も果断で手厳しいところがあるため、婦女子からは遠巻きにされがちだ。

 若くして組織運営能力、統率力、判断力全てに長けていると言われており、国が平和に保たれているのはイライアスの外交交渉能力に依るものと聞く。彼の治世に期待を寄せる貴族は多く、長く安泰が続くことは間違いないと思われている。

 そのため婚約者選定は急務なのだが、本人がのらりくらりと躱しているため遅々として進まないと周囲はやきもきしていると聞く。特に両陛下の気の揉みようは半端ないらしい。

 そんな訳で、一ヶ月後のイライアスの成人を祝う夜会は皆非常に気合が入って準備がされている。



(でもなー、ホント堅物なんだよな……女に興味があるのか疑うレベルで)


 ランドルフとクリフォードはイライアスを見て思う。

 イライアスの浮いた話は一度も聞いたことがない。


 イライアスは王太子として厳しく育てられたせいか異常に真面目で、ランドルフやクリフォードからは“怖いぐらいに常識人の堅物”と思われている。

 実は二人は、冗談のつもりで軽ーく“ゲーム”に誘ったことがある。落とした女性の数を競うという、彼らの遊びだ。結果、イライアスは烈火の如く怒り『そこへ座れ』と目の前で『乙女の恋心を何だと思っているのか』と長々説教を受けたのだ。

 長時間正座をさせられたその時のことを思い出すと、二人はいつも少し震える。


 因みにイライアスからは『君達二人は側近と思っている』との言葉を拝しているのだが、二人はやんわりと返事をしないでいる。不敬なのは承知しているが、特に咎められていないのでそのままである。

 二人としては、王太子の側近になるのが嫌と言うよりもまだ気楽な立場でいたいという気持ちが強い。

 だが、イライアスが成人し自分達もその日が近い。

 もう逃げてもいられないだろう。


 イライアスが、側近に希望している自分たちとの交流を求めているのは承知している。

 二人も、『げっ』と言いながら実は彼のことは嫌なわけではない。

 ただ、先触れは出してくれないかなとは思っている。流石に王太子を迎えるのに準備は必要だ。

 もしかしたら自分が来ると知ったら逃げられると思っているのかも知れない。


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